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硬貨で8P受け取り、小分けにした1回分の薬草を渡す。緑色の葉を紐で結いてある。
「これ、どうやって使うんですか?」
受け取った薬草を見て、客は俺の顔をじっと見上げる。初めて買ったのなら、使い方はわからないだろう。
「どこ、怪我したんだ?」
「腕です」
「見せてみな」
客が袖をまくって腕を見せる。獣系のモンスターの爪で引っ掛かれたような傷があった。
ふつうの生活ではできない傷。
血も結構出ただろうし、冒険初心者なら驚いただろう。できたばかりのような赤い傷だが、深くはなさそうだった。
これなら薬草で治る。
「薬草を乗せてみな」
客は薬草の紐をほどき、緑色の葉を傷に乗せる。
「全部ですか?」
その問いにうなずくと、客は全ての葉を乗せた。
「上から良くなじませる」
いい感じに薬草を傷に押し付ける。
「あ、緑が茶色になってく」
古の魔法使いが品種改良で作った傷を治すことができる葉だった。葉の緑の成分が皮膚に治す力を与えているらしい。軟膏と違い、葉をそのまま使っているだけなので最も安い。
「そのままさすって葉が全部茶色になったら取ればいい」
しばらくすると、薬草は茶色になった。
「もういいだろう」
ほどよく枯葉のようになった薬草を払い落とすと、客の腕はどこに傷があったのかわからないくらい綺麗になっていた。
「すごい。もう治ってる。しかもなんだかモチモチになってるし」
腕を見ながら嬉しそうに言う。
「戦闘中はこんなことしてられないから食べるらしい」
これも聞いた話だ。
「美味しいんですか?」
「不味い」
これは食べてみた感想。
「それに治るのも微々たるものだし、治ってもすぐに怪我をするから戦闘中は魔法を使った方がいい」
「魔法ですか……」
ため息交じりに客が言う。
「使えないのか?」
客はうなずく。
「魔法の才能はないらしいです」
苦笑いをして言った。魔法を使うには才能と知識と訓練が必要だった。
「冒険に出るなら、いい武器を買うかいい薬草を買うか、魔法が使える仲間を探した方がいい」
「いい薬草ってどういう薬草ですか?」
「もう少し大きな怪我でも治る薬草。すごい大怪我が治る薬草はウチでは売ってない」
ふつうの道具屋だから、すごい道具は売っていない。
「高いんですか?」
「高い」
「はぁ……」
客はがっかりして肩を落とす。
「酒場に行けば、そこそこな冒険者がいるぞ」
王都のふつうの酒場だとそこそこな冒険者しかいない。すごい冒険者を探すなら、ふつではないすごい酒場に行くか何かから隠されたなんかすごい場所に行くしかない。もしくは運で見つける。運はなんとも言えない。
それがわかっているのか、客も表情を明るくしない。
「行ってみます。ありがとうございました」
それでもそれが安上りだった。客は頭を下げ、カウンターから離れようとした。
「そうだ。これやる」
「何ですか?」
離れようとしていた客が戻ってきた。
「福引券」
緑のペラペラな紙を客に渡すと、
「ありがとうございます……」と、複雑な顔をして受け取った。
「本当は薬草1回分じゃ渡せないんだけど、初回サービスってことで」
「え? すみません」
そう言って、申し訳なさそうに頭を下げる。
「1枚じゃ大したものは当たらないと思うから気にするな」
「いいえ、嬉しいです。ありがとうございます」
冒険初心者はたかが紙切れ一枚でそこまでするかという笑顔を見せた。
「まいどあり」
「当たるといいなあ」
浮かれたように言い、ふわふわした足取りで出て行った。
こういう客はうちの道具屋では珍しくない。
冒険者も初心者の頃はこんなものだ。
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