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「持ち歩く場合、魔法使いが使える何でも入る魔法系のバッグがあればいいが、なければふつうの人でも使えるキルトの袋ならある。キルトは綿が入っていて衝撃を和らげるから小瓶が割れにくくなる」
そう言って、棚から大・中・小のキルトの袋を1枚ずつ出す。紐で引っ張ると口が閉まる巾着タイプだ。
「大きいのが10Pで回復薬以外の物も入る。小さいのは2Pで回復薬が1本だけ入る。中くらいのは4Pでその中くらい。割れないように布で包めば3~5本は入る」
さり気なく営業してみた。
「回復薬専用の袋か?」
「そういうわけじゃない。回復薬の小瓶はちょうどいい大きさだが、他の使い方をしても問題はない」
王都の住民には意外と売れていた。
「中を1枚くれ」
買うとは思っていなかった。
「何に使うんだ?」
いくらキルトとは言え、冒険者が持つには華奢な袋だった。それにこの客は買った回復薬は全部飲んでしまっている。
「見つけた宝を入れる袋がないときがあるんだよ。これならある程度は壊れにくくなりそうだし」
「なるほど」
大と小をしまう。
「回復薬と合わせて64Pだな」
ふつうの道具屋として大きな金額だ。
値段を言うと、一瞬だけ客が固まる。
「あ、そうか2本増えたからか」
そう言って財布から硬貨を出す。
「いつも通りの金額を出しそうになったよ」
苦笑いしてカウンターに64Pを置く。この金を稼ぐために、この客は何匹のモンスターを倒したのだろうか。
「回復薬を10本以上使うようになったら、宿に泊まった方が安くなるよ」
王都の宿屋は100Pだった。金を受け取り、レジにしまう。客を見ると、苦笑いしていた。
「魔力はそんなに上がらないと思うんだが、体力はバンバン上がるからなあ」
上がった体力を回復するためには、治癒魔法も使わなければならない。魔法剣士の魔法では、何度もかける必要がある。
「宿の方が面倒も少ないはずだ」
ちまちまと回復薬で治さずに、ベッドで寝れば魔力も体力も回復する。
「なんでそんなに宿を勧めるんだ? ここに来るなってことか?」
笑顔だったけど、寂しそうに客が言う。
誤解させてしまったかもしれない。
「ウチはふつうの道具屋だから、お客さんみたいな冒険者はレベルが上がると来なくなるんだよ」
だから冒険者はお得意様になっても、いずれふつうの道具屋に来なくなる。
「俺、レベル、上がってるか?」
みるみるレベルが上がっているのに、本人には自覚がないようだ。
「間もなくウチでは間に合わなくなるだろうね」
冒険者がふつうの道具屋に来るのはレベルが低い間だけ。
「そうか……」
客はしみじみと言う。それは良いことのはずなのに、嬉しそうには見えなかった。
「レベルが上がるのは嬉しいが、慣れ親しんだこの道具屋に来ることがなくなるのは淋しいなあ」
その様子を見ていたら、こっちもしんみりしてしまった。
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