第12話 足りないのは

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「どれどれ……」 ぱらり。 ページをめくる。 「これが恋する乙女……」 わかるー、わかるよー。 私もさぁ、仕事でいろいろあるからさぁー。 「この距離感、最高!いいぞ、もっとやれ!」 酔っぱらいの親父のように絡みながら読んだ。 物語は最高潮。 「ぎゃー!せんせーい!クリスマス、キタコレ!むずきゅん、むずきゅん!」 興奮のあまり、ゴロゴロとベッドの上をハイスピードで転がって―――そして、背中から床へと滑り落ちた。 「ぎゃふっ!!」 あー……天井が見える。 そして、背中が痛い。 「い、痛ぁー……」 勢い余ってベッドから転がり落ちてしまった。 私は痛みと自分のマヌケっぷりにしばらく呆然としていた。 誰もこの失態を見ていない。 これが一人のいいところ。 一人静かにもそもそとベッドに戻り、そっと続きを読む。 何もなかった。 うん、何事もなかったよ。 二十八歳、新織(にいおり)鈴子(すずこ)。 今になって必死に男女の恋を学んでいます―――
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