第20話 リンドブルムからの相談事。

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第20話 リンドブルムからの相談事。

       ◆◆◆  城内の会議室。  スフィーダの左隣にはヨシュアが座っていて、彼女の向かい、白くて四角い石製のテーブルの先には、頬に傷のある中将、六十代にもなるリンドブルムの姿がある。 「いきなりで申し訳ないんだが、女王陛下」 「なんじゃ?」 「俺はヨシュアに話があったんですよ。陛下は呼んでいない」  なんともリンドブルムらしい言い方だ。  邪険にしているわけではないだろう。  無礼だとも思わない。  素直な物言いには好感すら持てるくらいだ。 「どうせ私から陛下に伝えるんです。参加していただいてもいいでしょう?」 「ああ、そうだな、大将閣下。まったくその通りだ」 「では、話してください」 「グスタフの件だよ」  スフィーダ、自分の心臓がドキッと跳ねたことにびっくりした。  プサルムの北にある隣国、グスタフ共和国。  かの国との国境線には、フォトンの部隊が展開しているはずだ。 「最近、奴さんらの動きがうっとうしい。ちまちまちまちま、ちょっかいを出してくるんだよ」  フォトンの直接の上官にあたるのがリンドブルムだ。  都度、フォトンからホウ・レン・ソウを受けているのは彼なのである。 「ちょっかいを出してくるというのは、以前からでは? そう聞いていますが?」 「その頻度が高くなったと言っているんだ」 「例の”恐怖の白”、リヒャルト・クロニクルが仕掛けてきているのですか?」 「そうだ」 「フォトンなら、追っ払うのはわけないでしょう?」 「らしいな。だが、追っ払うだけじゃあ、戦いは終わらない」 「そろそろ、国そのものを取り潰すべきだと?」 「そうは考えんか?」 「リンドブルム中将。貴方の提案は理解できます。ですが、今、グスタフに攻め入るのは、非常にリスキーだとしか言いようがありません」 「やはり、そうだよなあ」 「ええ。なにせ、クロニクルは曙光の将軍ですから。今、彼を討ち、彼らと真っ向から対立するのは避けたいところです」 「だが、いつかはやらにゃあならんだろう?」 「そうなのかもしれませんが」 「話を変える。メルドーについてだ」 「おや。なにかあるんですか?」 「ヴァレリアの報告によると、クロニクル閣下は勝手にメルドーをライバル視し始めているんじゃないかってことらしいんだよ。それってメルドーからすれば、実にうっとうしいことなんじゃないかね」 「あるいはそこに、フォトンは仕事のやりがいのようなものを感じているかもしれませんよ?」 「まあ、その可能性は否定せんが。で、だ。つまるところ、俺がなにを言いたいかというと」 「伺いましょう」 「俺はヴァレリアの意見に肯定的だ。向こうの大陸で曙光に抵抗を続けている国の中には骨のある軍人だっていると思うが、メルドーと比肩する者なんているはずがない。クロニクルからすれば、最高で格好の遊び相手を見つけたというわけだ。裏を返せば、メルドーが退けば、クロニクルも興味を失って退くんじゃないかってことになる。そもそも、グスタフを踏み台にしてこっちの大陸への侵入を本気で考えているのなら、曙光はもっと多くの兵を寄越している」 「その点については、同意見です」 「俺の予測を言う。今回、グスタフに与したのは、あくまでもクロニクルの権力の範囲でのことだ。奴さんは暇してるんだろうさ」 「ある程度の立場になると、ある程度の自由が利く。まったく、曙光らしい話ですね」 「そういうことになる。というわけで、メルドーは戻す。陛下、それでいかがでしょうか?」 「ななっ、なぜ、ここでわしに話を振るのじゃ?」 「またまた。わかっているでしょうに。あんまりうかうかしていると、ヴァレリアの奴に取られてしまいますよ?」 「ヴァ、ヴァレリアはフォトンの通訳みたいなものじゃろうが」 「それだけの関係にしか見えないとおっしゃるのであれば、陛下の目は節穴ですな」 「む、むむぅ……」  リンドブルムが立ち上がると、白いマントがひらりと揺れた。 「グスタフの扱いについては、将来的なことも含めて、なにか指示が欲しい。ただ、喫緊の課題ってわけでもない。方向性を打ち出してもらえるだけで助かると俺は言っている」 「わかりました。考えておきます」 「頼むよ」  リンドブルムは木製の戸を開け、部屋をあとにした。 「の、のぅ、ヨシュアよ」 「なんでございましょう?」 「その、フォトンめを、戻すのか……?」 「そうなることかと思われます」 「その、あの、じゃな……」 「なんでございますか?」 「いや、戻ってくるのなら、その、あの……」 「お会いになりたいと?」 「なんというか、その、まあ、そうなのじゃが……」 「やはり、ヴァレリア大尉に取られやしないかと心配でございますか?」 「そそそ、そんなことはない」  そう言いつつも、スフィーダ、ヴァレリアのしなやかな肢体に、フォトンの逞しい肉体が重なる一部始終を想像してしまう。  途端、彼女の顔からは火が出そうになった。
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