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第1話 幼女王と最側近。
◆◆◆
スフィーダはプサルムの女王陛下だ。
見た目は七つやそこらのまま、二千年以上も生きている。
そんな有様だから、彼女自身、まるで死神に見捨てられたみたいだと思っている。
大いに年も食っていれば、大いに魔法も達者なので、魔女とも神とも呼ばれるスフィーダである。
彼女を恐れるニンゲンもいれば、逆に崇めるニンゲンもいる。
後者のほうが圧倒的に多いというのが実状だ。
スフィーダ自身、ほとんど人外の存在であることは認めているものの、崇めるのはよしてもらいたいと考えている。
しかし、ヒトからすれば、それは難しい話らしい。
どうしたって、信仰の対象としてしまうらしい。
それでも、あまりに持ち上げてくるような輩と出くわすと、玉座の上で腕を組み組み、ときにぷんすか頬をふくらませてしまうことだってある。
大人げないことだとは思う。
見た目は幼女でも二千歳を超えているのだから、大人の対応をしなければならないことくらいわかっている。
だが、どうしたって我慢できないときもある。
「わしだって、好きで二千年も生きているわけではないし、望んで女王をやっているわけでもないのじゃぞ?」
あるいは、そう言ってやりたくなる瞬間もあるのだ。
無論、言ったりはしない。
言ったら言ったで、きっとやんわりと叱られてしまう。
いつも玉座のかたわらに控えている、ヨシュア・ヴィノーという男に。
◆◆◆
ヨシュア・ヴィノー。
銀髪に碧眼、弱視の左目には片眼鏡。
まとう真っ白な魔法衣の胸元には紫色の薔薇を模した刺繍が施されており、花の真ん中では大ぶりのルビーが洗練された輝きを放っている。
齢二十と三。
その若さにして、軍の大将を務めている。
かつ、スフィーダの最側近でもある。
軍のトップとスフィーダの参謀役。
その二つを兼任する稀代の天才だということだ。
実力と人柄。
いずれにおいても隙がないことから、軍人、文官、庶民からの信頼は厚い。
おまけに、まこと容赦のない美男子だ。
彼に妻があることを知りながら、思い切って恋文をしたためる、否、思わずしたためてしまう女子も少なくないと聞く。
ヨシュアを高く評価しているという自負が、スフィーダにはある。
だが、彼女はときどき、彼に文句をつけたりする。
融通が利かないところがあるからだ。
たとえば、一つくしゃみをしただけでも、その日、テラスのプールで泳ぐことをゆるしてくれなくなる。
「鼻がむずむずしただけじゃ」
「いいえ。お風邪かもしれません」
「そんなことはない。泳ぐぞ」
「ダメでございます」
「泳ぐと言っておるっ」
「ダメでございます」
以上のようなやり取りが、しばしば繰り広げられる。
忠誠心にあふれたまさに忠臣に違いないのだが、頑固すぎる点はいかがなものか。
そもそもスフィーダ、二千年以上生きてきて、風邪をひいたことなど一度もないのである。
だが、何度そう訴えようとも、にこりと微笑みながら、「ダメでございます」と返してくる。
なにを言うにつけても、微笑しながらというのはやめてもらいたい。
からかわれているような気分になるからだ。
否。
実際にからかわれ、遊ばれているのかもしれない。
時折、暇つぶしがてら、自分のことを弄んでいるのではないか。
スフィーダ、実はそんなふうに疑っているのである。
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