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第17話 十七歳コンビの登場。
◆◆◆
イーヴルとドル・レッドが襲来した日の翌朝。
ヨシュアに言って、くだんの若い男女を呼んでもらった。
男のほうは茶色い短髪。
だぼっとした黒いズボンと丈の長い黒い上着を身につけており、それらは主に軍の魔法使いがまとう軍服である。
女のほうは赤茶けた感のあるショートヘア。
タイトな黒いズボンに腰丈の黒いジャケットという恰好で、それらはごく一般的な兵士が着る軍服である。
やがて二人は揃って片膝をつき、頭を垂れた。
男は「ピット・ギリー、参上しました」と言った。
女は「ミカエラ・ソラリス、参りました」と言った。
「面を上げよ」
すると二人は揃って「はっ」と返事をし、顔を上げた。
早速「そなたら、年はいくつじゃ?」と訊ねると、ピットは「十七です」と答え、ミカエラは「同じく」とだけ返してきた。
十七歳であそこまで戦える力量と度胸に、スフィーダは改めて驚かされた。
実際、彼女は「ピットもミカエラも、大したものじゃのう」と口にした。
ピットはつい素が出てしまったのか、「まだまだッスよ」と砕けた口調になった。
そしたら、すかさずといった感じで、ミカエラが彼の頭をぽかっと叩いた。
その様子を見て、スフィーダは目を細め、口元を緩める。
どうやらいいコンビであるようだ。
「七宝玉の使い手など久方ぶりに見たぞ。ピットは才能豊かなのじゃな」
「うーん、まあ、なんというか、そうなんスかね」
また頭を叩かれたピットである。
「よいよい、ミカエラ。そなたもそなたらしく振る舞ってくれてよいぞ」
「承知しました」
「ピットよ」
「なんスか?」
「七宝玉は、やはりギリー家のニンゲンにしか扱えんのか?」
「そうみたいなんスけど、どうしてそうなのかはわからないんスよねぇ」
「動けと念じれば動くのか?」
「そんな感じっス。えっと、陛下」
「ん?」
「あの青い肌したガキんちょが着てた赤い魔法衣って」
「そうじゃな。あやつは曙光の者なのじゃろう」
「やっぱり、そうッスか。肌が青いのはどうしてなんスかね。そんなニンゲンもいるってことなんスかね」
「吸血鬼なのかもしれん」
「えっ。あれがそうなんスか?」
「恐らく、そうじゃろう」
「吸血鬼って、長生きなんスよね?」
「その通りじゃ」
「でも、夜にしか行動できないんじゃないんスか?」
「それは迷信じゃ」
「そうなんスか。なんつーかまた、期せずしてレアな敵とぶつかったもんスね」
後頭部を掻いたピットである。
「移送法陣を使ったのって、国際法違反ッスよね?」
「曙光に抗議すべきだと言いたいのか?」
「しないんスか?」
「世界一の大国に物申したところで、効果があるとは思えん」
「ま、そッスね」
「ところで陛下」
「なんじゃ? ミカエラよ」
「今日、あたし達が呼ばれた理由って、なんなんですか?」
「そなたらに礼を言いたかったのじゃ」
「個人的には、邪魔をしちゃっただけじゃないかなって思ってるんですけど」
「わかっておったのか」
「そのくらいわかります」
スフィーダ、はっはっはと笑う。
笑ってから、うーむと腕を組んだ。
「それにしても、年端もゆかぬ若者に軍の門戸を開いている現状はいかがなものかと、わしは思うのじゃが。のぅ? ヨシュアもそう考えておるのじゃろう?」
「はい。陛下と同じ意見でございます」
「でもッスね、俺達くらいの年の連中って、結構、血の気の多い奴がいるッスよ? ミカだってそうだし」
「ピット、アンタと一緒にしないでくれる?」
「そもそも、そなたらはどうして軍に入ろうと考えたのじゃ?」
「刺激が欲しかったからッス」
「ミカエラは?」
「殴るのが好きだからです」
「ほら、やっぱ血の気が多いじゃんかよ」
「いや、アンタほどじゃないから」
「ミカエラは、魔法は使わんのか?」
「得意じゃないんです。空を飛べるというだけです」
「剣や槍を持とうとは考えんのか?」
「状況もバリアも、拳で打破してみせます」
「た、頼もしいのぅ」
「恐れ入ります」
「とはいえ、できれば軍など持ちたくないのじゃがな」
スフィーダ、溜息。
つい本音がこぼれてしまった。
ピットとミカエラが顔を見合わせる。
「陛下」
「ん?」
「俺、この国、プサルムっていう国が好きっスよ。結局のところ、だから戦うことを選んだんス。ミカもだよな?」
「少なからずその思いがあることは、否定しない」
「あいわかった」
玉座から腰を上げ、二人に対してぺこりと頭を下げたスフィーダである。
「これからも我が国を支えるニンゲンであってくれ」
スフィーダが顔を上げて微笑んでみせると、少々驚いた様子のピットとミカエラは、また顔を見合わせたのだった。
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