第3話 初めての謁見者。

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第3話 初めての謁見者。

       ◆◆◆  二人の近衛兵に挟まれた格好で、男が長い赤絨毯の上を歩いてくる。  粗末な感が否めない茶色い上下の着衣姿であり、白髪頭だ。  初老くらいだと思われる。  やがて男は跪き、大仰に座礼をした。 「恐れ多くも女王陛下、わたくしめなどの面会をおゆるしいただき、ありがとうございます」 「よいよい。わしは長く生きているというだけじゃ。そう偉い者でもない。遠慮せんで(おもて)を上げよ」  スフィーダがそう告げると男は顔を上げ、目には涙を浮かべた。 「おぉ、なんたるお優しいお言葉。”慈愛の女王”とは本当でございますね」 「じゃから、世辞はよい。はよう用件を述べてみぃ」 「実は、先日の大水にて、家が流されてしまいまして……」 「大水とな? どこの地域じゃ?」 「ずっと北部にある、小さな村でございます」 「遠方から、ご苦労じゃった」 「とんでもございません」 「察するに、家をなんとかして、治水工事もしてほしいというわけじゃな?」 「なにとぞ、なにとぞ、ご一考を。界隈の者もみな、困り果てているのです」  男は「なにとぞ、なにとぞ」と繰り返し、また深々と座礼をする。  スフィーダは左を見上げた。  控えているヨシュアに、「すぐに予算を組め」と指示を出した。  すると、彼は「仰せのままに」と返事をした。 「おぉ、おぉ、ヴィノー様。貴方様もお噂通り、お優しい方でございますね。ありがとうございます。ありがとうございます」  用事を済ませた男は立ってからもしつこいくらいに礼を繰り返し、ゆっくりと身を翻して歩を進め出すと、やがては大扉の向こうへと消えた。  一連の対応をしてみてたいへん満足し、晴れやかな気持ちになったスフィーダである。        ◆◆◆ 「おぉーっ、よいのぅ、よいのぅ。メチャクチャ新鮮じゃ。こういう時間が欲しかったのじゃ」 「陛下、玉座の上に立っての万歳はおやめください」 「じゃが、よかったのか? わしの一存で決めてしまって」 「一存ではありません。明日の国会にて承認される事項でございます」 「な、なぬっ!?」 「あらかじめ、そのくらいの下地は整えます」 「わしには決定権などないということか?」 「あるいは」  ちょっとしょんぼり、残念に思ったスフィーダである。  なんだか仕事をした感も削がれてしまった。  だが、国会がきちんと機能しているという当たり前の事実は受け容れなければならないだろう。 「先ほどの者を謁見者として選んだ理由はなんじゃ?」 「遠路はるばる訪れたわけですから」 「じゃが、そのような者はいくらでもおるのではないのか?」  そう。  プサルムは大国だ。  遠くから会いに来るニンゲンだって、少なくないだろう。 「そこは私の一存でございます」 「わしの一存はダメなのに、おまえの一存はよいのか?」 「それとこれとは話が別でございます。この先もお任せいただければと存じます」 「なんだか煙に巻かれてばかりいる気分なのじゃが……」 「気のせいでございます」 「わかった。これからもよろしく頼む」 「承知いたしました」  スフィーダは玉座に腰を下ろした。  そして、さっきの男は”慈愛の女王”という単語を持ち出したことを思い返した。  ”慈愛の女王”。  大げさな二つ名だ。  だが、愛を忘れては女王失格だろう。  博愛をもって、よしとする。  スフィーダのその信念は揺るがない。  まあ、実際、民はみな、かわいい。  そう思えるのは、二千年以上も生きているからだ。  プサルムに住まう人々は、我が子同然と言えるのだ。  スフィーダが両手を突き上げうんと伸びをすると、純白のドレスを装飾しているダイヤやクリスタルが布地とこすれて、しゃらしゃらと音が鳴った。
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