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第375話 弔いの先に。
◆◆◆
率直に言って、錆びた感のある中年であろう女が、玉座の間を訪れた。
女は言った。
怒りに満ちた顔をして。
「私の息子は死んでしまいました。この責任は誰がとってくれるんですか? お答えいただけますか、スフィーダ様」
「そなたが言わんとしていることはわかる。しかし、わしは詳しいことまで知る立場にないのじゃ」
「ハイペリオン戦役」
「それは知っておる。そうじゃな。わしらはかの国と最近、揉めた。戦争があった」
「ちんけな戦争だったとお思いですか?
「そうは思っておらん」
「嘘よっ!」
「どうか落ち着いてほしい。そなた、名は?」
「……サンドラ」
「美しい名じゃ」
「戦争が起きなければ、私の息子は死なずに済んだ……。違いますか?」
「違わん。じゃが、国を思って戦ってくれた兵のことを、わしは蔑ろにはできん」
「玉座に座り、戦死者には労いの言葉を向ける。アッハッハッ! そんなことでゆるされると思っているのですか!!」
「サンドラ……」
「私は夫とともに、ハイペリオンと一戦交える覚悟です」
「一戦交えると言ったところで、敵などもう、おらんのじゃぞ?」
「片っ端から潰してやれば、気が済むかもしれない。結果的に息子の仇を、討つことができるかもしれない」
「それは危険な考え方じゃ。許容できることではない」
「スフィーダ様。なにがあろうと、私は止まりません」
「じゃが――」
「腹を痛めて子を産んだことがないから、スフィーダ様は綺麗事を言えるのです」
「それは……」
「……すみません。言いすぎました」
サンドラは颯爽と身を翻し、向こうへと歩む。
「待て、サンドラ!」
呼び止めたものの、無効だった。
◆◆◆
翌日。
平定されたはずのハイペリオンにおいて、小規模な煙が立ち上ったらしい。
謁見の場が昼休憩を迎えた段。
「やはり、サンドラの仕業なのか?」
「そう判断するだけの情報は、今のところありません」
昼食のテーブルにつきながら、スフィーダは吐息をついた。
「ハイペリオンとの戦争は、もう終わったのじゃ。わしらからしても、やれることがあるとすれば残党狩りくらいのものじゃろう? なのに、なのにサンドラは、なにを求めておるのか……」
ヨシュアは「頭が痛くなるような話です」と言い、「サンドラ氏に向ける言葉など、本当には存在しない」と続けた。
「でもじゃ、ヨシュアよ。わしはサンドラのことを厳しく罰してほしくない」
「そのさじ加減が難しいところなのでございます」
「おまえなら、うまく取り計らってくれるよう思うておる」
「それは実現するのは難しいかもしれない文言、あるいは欲求です」
ヨシュアはそう締め括ると、テーブル席についた。
にっこりにこりと笑ってみせた。
ヨシュアに任せておくしかないのだと思う。
それは間違いではないだろう。
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