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第6話 ヨシュアはヘンタイなのかもしれない。
◆◆◆
年がら年中、ぽかぽか陽気のプサルムの首都アルネである。
多忙だとはとても言えないスフィーダは、今日も玉座を離れ、白いビキニを着て、テラスのプールで泳ぐのである。
足でバシャバシャ水を跳ね上げ、泳ぐのである。
ヨシュアはといえば、プールサイドで白いタオルを持って、すでにスタンバイしている。
過去にスフィーダの最側近を務めたニンゲンには、男もいたし、女もいた。
だが、積極的に彼女のことをタオルで包んでやろうという輩は、ヨシュアが初めてである。
恐らくではあるが、自分が満足するまで体を拭ってやらないと気が済まないのだろう。
彼の「お風邪を召されては困りますから」という口ぐせのような物言いが、そうであることを如実に示している。
最初は他者に体を触られるなんて、嫌だったのだ。
だって、なんだかこそばゆくて、全身がむずむずするから。
逃げ回ったことだってある。
しかし、すぐに捕まってしまった。
ヨシュア、走ると結構速いのだ。
ぽかーんと天を見やる。
澄んだ青空にまぶしい太陽。
本当に、今日もいい天気だ。
平和でもある。
この世において、争い事が絶えないなんて、嘘っぱちだと思いたくもなる。
スフィーダ、ときどき、思い悩むことだってある。
もっとこう、能動的に、たとえば世界各地をパトロールしたほうがいいのかもしれないと、悩んだりする。
自らとごく少数の有志でプサルムを建国してからずいぶんと経つが、それ以前は空を行き、あちこち飛び回っていたのだ。
いろいろな場面に出くわしたし、いろいろなことをやった。
自分がやらなければならないことは山ほどある。
そう信じて疑わなかった。
だが、あの頃と比べると、世界の様相がえらく異なっていることも事実だ。
よって、あまり軽率にあれこれ手を出すべきではないだろうと考える。
あるいは、魔女たる自分が静かにしているほうが、平穏と言えるのかもしれない。
プールから上がると、早速、ヨシュアが近づいてきた。
スフィーダ、万歳をする、くるっとタオルに包まれる。
それから念入りに長い黒髪を拭いてもらっている最中に訊ねた。
「ヨシュアは今、幸せを感じておるか?」
ヨシュアは、「さあ。どうでございましょう」と、はぐらかすような言い方をした。
だからスフィーダは素直に「はぐらかすでない」と返した。
「私は幸せでございます。それも陛下のご加護のお陰だと考えております」
「わしの加護、加護のぅ。それは他の民にも言えることなのかのぅ」
「陛下の包容力には、誰も敵いません」
「本当に、そうなのかのぅ」
「もしご心配なようであれば、一度、人気投票を開催いたしてみましょう」
「むむっ、人気投票とな?」
「さようでございます。その上で、陛下を支持するニンゲンから選び、陛下への愛を叫んでもらいましょう」
「それはさすがに照れるぞ?」
「実は非公式ながら、すでにファンクラブなるものが」
「そ、そうなのか?」
「はい」
「どんな活動をしておるのじゃ? そのファンクラブとやらは」
「陛下の肖像画を見て、いろいろとするのでございましょう」
「い、いろいろ?」
「具体的には、はあはあするのでございましょう」
「は、はあはあじゃと!?」
「陛下のお体を拭ったタオルなど、オークションにかければ、それはもう高額で落札――」
スフィーダ、思わずヨシュアの拭き拭きからバッと逃れ、彼から距離をとった。
両腕を抱えるようにして、彼女は胸の前を隠す。
「まま、まさかヨシュア、貴様、実はもうやっているのではあるまいな?」
「タオルの転売でございますか?」
「そそそ、そうじゃっ」
「ふふ。どうでございましょう」
ヨシュアは、にこりと笑ってみせるだけだった。
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