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第7話 男子と抱き合う。
◆◆◆
本日一人目の謁見者は、まだ幼い男子だった。
例によって、近衛兵二人に挟まれ、近づいてくる。
男子は白いシャツを着ていて、サスペンダーがついた半ズボンをはいている。
精一杯の正装に見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
子供がやってくるとは思っていなかったので、スフィーダ、思わずきょとんとなった。
続いて、目をぱちくりさせてしまう。
ヨシュアはなぜ、こんな子供を謁見者として選んだのだろう。
そんな疑問が浮かぶのも当然のこと。
男子は所定の位置で跪き、深々と座礼した。
「女王陛下、ヴィノー様、このたびは謁見をおゆるしいただき、ありがとうございます」
男子の口調は、はきはきとしていて気持ちのよいものである。
「よいよい。面を上げよ」
すると、顔を見せた途端、男子はぽろぽろと涙をこぼし始めた。
スフィーダはギョッとなった。
まさか、女王に会えたことで感動している?
それならそれで殊勝なことだとは思うのだが……。
「そなたの名前はなんというのじゃ?」
スフィーダが優しくそう問うと、男子はグスグスと鼻を鳴らしながら、「ユーリと申します」と答えた。
「そうか。ユーリよ、いったいどうしたのじゃ? 話してみよ」
「その、とっても、えっと、実に申し上げにくいことなのですけれど……」
男子ががんばって敬語を使おうとする姿は、とても健気に映る。
経緯を知っているに違いないヨシュアが、「いいんですよ。話しなさい」と穏やかに言った。
ユーリはこくりと頷いてみせた。
「実は、陛下が妹にとてもよく似ているんです」
「妹、とな?」
「はい」
「で、それがどうしたのじゃ?」
「妹は、一年前に死んでしまったんです」
「そ、そうなのか?」
「はい」
「なぜ死んでしまったのじゃ?」
「生まれつきの病気でした。医者のおじさん、じゃなかった。お医者様が言うには、どうにもならなかったとのことでした」
「それはまた、なんというか、不幸なことよのぅ……」
「はい……」
「しかし、いくらわしでも、死者を蘇らせることはできんぞ?」
「わかっています」
「では、ユーリはいったい、わしになにを言いにきたのじゃ?」
「本当に、その、恐れ多いことなんですけれど、その……」
「申してみよ」
「陛下、お願いです。抱き締めさせていただけませんか?」
スフィーダは、「なんじゃ。そんなことか」と微笑んだ。
彼女があまりに気軽に応じたせいだろう、ユーリは「えっ」と目を大きくした。
玉座から腰を上げ、一つ、二つ、三つと階段を下り、スフィーダはユーリの前に至った。
彼女は両手をバッと広げてみせた。
「立つのじゃ、ユーリ。存分にわしを抱き締めよ」
立ち上がったユーリ。
スフィーダより十センチ以上、背が高い。
強く抱きついてきたので、強く強く抱き返してやった。
ユーリは「カサリア、カサリアァァ……」と漏らしながら、泣く。
スフィーダは「わしに似ておるなど、カサリアは美少女だったのじゃな」と、ささやくように言った。
ヒトはいつか死ぬ。
とても悲しいことではあるけれど、それは誰にもどうにもできない理だ。
対して、自分はどうだろう。
魔女にも寿命はあるのだろうか?
二千年以上も生き、これからも生きていくであろう己には、どんな未来が待ち受けているのだろう。
そんなこと、考えても詮方ないのに、時折考えてしまうスフィーダだった。
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