第7話 男子と抱き合う。

1/1
前へ
/575ページ
次へ

第7話 男子と抱き合う。

       ◆◆◆  本日一人目の謁見者は、まだ幼い男子だった。  例によって、近衛兵二人に挟まれ、近づいてくる。  男子は白いシャツを着ていて、サスペンダーがついた半ズボンをはいている。  精一杯の正装に見えるのは、きっと気のせいではないだろう。  子供がやってくるとは思っていなかったので、スフィーダ、思わずきょとんとなった。  続いて、目をぱちくりさせてしまう。  ヨシュアはなぜ、こんな子供を謁見者として選んだのだろう。  そんな疑問が浮かぶのも当然のこと。  男子は所定の位置で跪き、深々と座礼した。 「女王陛下、ヴィノー様、このたびは謁見をおゆるしいただき、ありがとうございます」  男子の口調は、はきはきとしていて気持ちのよいものである。 「よいよい。(おもて)を上げよ」  すると、顔を見せた途端、男子はぽろぽろと涙をこぼし始めた。  スフィーダはギョッとなった。  まさか、女王に会えたことで感動している?  それならそれで殊勝なことだとは思うのだが……。 「そなたの名前はなんというのじゃ?」  スフィーダが優しくそう問うと、男子はグスグスと鼻を鳴らしながら、「ユーリと申します」と答えた。 「そうか。ユーリよ、いったいどうしたのじゃ? 話してみよ」 「その、とっても、えっと、実に申し上げにくいことなのですけれど……」  男子ががんばって敬語を使おうとする姿は、とても健気に映る。  経緯を知っているに違いないヨシュアが、「いいんですよ。話しなさい」と穏やかに言った。  ユーリはこくりと頷いてみせた。 「実は、陛下が妹にとてもよく似ているんです」 「妹、とな?」 「はい」 「で、それがどうしたのじゃ?」 「妹は、一年前に死んでしまったんです」 「そ、そうなのか?」 「はい」 「なぜ死んでしまったのじゃ?」 「生まれつきの病気でした。医者のおじさん、じゃなかった。お医者様が言うには、どうにもならなかったとのことでした」 「それはまた、なんというか、不幸なことよのぅ……」 「はい……」 「しかし、いくらわしでも、死者を蘇らせることはできんぞ?」 「わかっています」 「では、ユーリはいったい、わしになにを言いにきたのじゃ?」 「本当に、その、恐れ多いことなんですけれど、その……」 「申してみよ」 「陛下、お願いです。抱き締めさせていただけませんか?」  スフィーダは、「なんじゃ。そんなことか」と微笑んだ。  彼女があまりに気軽に応じたせいだろう、ユーリは「えっ」と目を大きくした。  玉座から腰を上げ、一つ、二つ、三つと階段を下り、スフィーダはユーリの前に至った。  彼女は両手をバッと広げてみせた。 「立つのじゃ、ユーリ。存分にわしを抱き締めよ」  立ち上がったユーリ。  スフィーダより十センチ以上、背が高い。  強く抱きついてきたので、強く強く抱き返してやった。  ユーリは「カサリア、カサリアァァ……」と漏らしながら、泣く。  スフィーダは「わしに似ておるなど、カサリアは美少女だったのじゃな」と、ささやくように言った。  ヒトはいつか死ぬ。  とても悲しいことではあるけれど、それは誰にもどうにもできない(ことわり)だ。  対して、自分はどうだろう。  魔女にも寿命はあるのだろうか?  二千年以上も生き、これからも生きていくであろう己には、どんな未来が待ち受けているのだろう。  そんなこと、考えても詮方ないのに、時折考えてしまうスフィーダだった。
/575ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加