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攻略できたの!?
思わず、体を勢いよく起こした。勢い余り過ぎてスマホを手から滑らせてしまい、受け取ろうとしたら体勢を崩して、スマホごと床にダイブする羽目になった。
「……たたっ」
もろにぶつけた額を撫でつつ、スマホを手に取る。また通知音が鳴った。
また分からないことが出てきたのか。それとも何かあったのか。
もし、非常事態だったら?
コミュ力があって行動力のある幹人がどうしようもないことを、私にどうにかできるの?
(……悩んでても仕方ない)
ごくりと唾を飲み込み、SNSを開く。
【起きてるか】(いつでも目が死んでる魚のスタンプ)
『おい、何かヤベーことになったんだけど』
「何だぁ……」
情けない声が、溜め息と共にこぼれる。
ヤベーと言うが、この口ぶりだと非常事態ではないようだ。
『何よ、ヤベーことって』
できるだけ、十数秒前の動揺が出ないように素っ気なく返答する。
文字だけのやり取りで良かった、と胸を撫で下ろす。幹人に今の私を見られでもしたら一巻の終わりだ。ムカツク笑顔でしつこく絡んでくるのが目に見える。
『帰れないんだよ』
『帰れないって……悪役令嬢を落としたのにってこと?』
『まぁ』
『ちゃんと落としたんでしょうね?』
『落としたに決まってんだろ! けど……』
『何よ』
『ゲームのキャラ全員から求愛されてんだよ』
思考が停止した。
一瞬の間を開けて、絶叫が喉から飛び出した。
「はああああ!?」
『全員って、男キャラからも!?』
【あぁ】(むかつく顔の犬のスタンプ)
スマホを手から落としそうになるのを何かこらえる。一体どうなってんのよ乙女ゲーの世界!!
(ていうか、それなら推しのスイレンも!?)
推しが弟に迫る図を想像してしまった。今すぐスマホを窓の外にぶん投げたい衝動に駆られたが、何とか抑え込んで返信した。
『あんた男まで口説いたの!? マジキモい!! あり得ないんですけど!!』
『んなわけあるか!! ハンカチ落としたの拾ったりとか、そんだけで何か告白されてんだよ!!』
『キャラ全員チョロすぎでしょ!!』
私がアドバイスした意味ゼロじゃん!!
ていうか、そんなんで落ちるなら私でも攻略できるし!!
『でも、悪役令嬢は落としたんでしょう? 何で帰れないのよ?』
『俺が聞きて―よ』
『女神は何て?』
『このままじゃゲームバランスおかしくなるから、悪役令嬢一人に絞れだと』
『いや、そもそも幹人がそこにいる時点でゲームバランスおかしくなってるよね?』
『その辺は知んねーけど』
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