約束、忘れないでよ?

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約束、忘れないでよ?

『とにかく、悪役令嬢以外をどうにか追っ払いたいんだよ。つうわけで、引き続きアドバイスよろしくな』 『私の手に負えないでしょそれ!!』  ハーレム状態から脱するとか前代未聞だし!  しかも八割が男とかもはやBLじゃんそれ!! 『駅前のチーズケーキ』  ピクリと脳と舌が反応する。  駅前のチーズケーキといえば、今密かにバズっているチーズ専門店の新メニューだ。前から食べたくて仕方ないのだが、一人で食べるには大きいし値も張る。 『おごってやるよ。それでいいだろ』  甘くてしょっぱいクリームチーズの滑らかな味わいが、とろりと舌の上で溶けて―― (あぁもう! 絶対食べたい!!) 『チョコレート専門店もだからね。約束、忘れないでよ』 『分かってるって。お前じゃあるまいし』 『私だってそんなポンポン忘れないわよ!!』  いちいち腹立つが、甘美なチョコレートとチーズケーキが待っている。仕方なく大目に見てやることにした。 『幹人』 『何だよ』 「…………」  文字を打ち終えて、送信ボタンに指を伸ばす。  少し躊躇ってから、もうやけくそだと送信した。 『ちゃんと帰ってきなさいよ』  通知音が鳴らない。  何だか居たたまれなくなって、立て続けに送信した。 『お父さんとお母さん、心配してるんだからね』 『あと、彼女さんも』  打ち終えたタイミングで、通知音が鳴った。 『ひなた』 『何よ』 『ありがとな』  一瞬、文字を打とうとした手が止まった。  不覚にも、あいつの声を聞きたいなんて思ってしまった。 『どういたしまして』  まぁ、そんなこと、口が裂けても言えないけど。 『そういやお前、俺がいないからって寝坊してねーだろうな?』 『してないわよ!』  私と弟の乙女ゲー世界脱出の攻略は、まだしばらくは続きそうだ。
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