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些末な感情
女の胸は高鳴っていた。
「やったわ!」
鬱屈とした生活から抜け出した彼女は、震える両手で自らの身を抱きしめた。コートが汚れたって気にしない、なぜなら朱殷だから。
その日、彼女が抱えていた寂しさが消えた。
旦那に奴隷のように使われる毎日、話し相手がない毎日、周囲の人の記憶から消えかけていた毎日で抱え込んでいた寂しさが、一気に消え失せた。
テレビの向こうに広がる光景は、実在する世界なのに、どこかお伽噺のようにしか映らなかった。
しかし自らの意思でその場に立つと、体中の血が沸騰するような感覚に襲われ、しばらく身動きができなかった。
世界は彼女を受け入れてくれた。
興奮にただ立ち尽くすだけの彼女に、見ず知らずの人が話しかけて身を寄せてくれたのだ。
声をかけられ、身を寄せて一緒に写真を撮り、中には自分の名前を呼んでくれる人もいた。
(私は忘れられていなかった!)
あの日あの時に彼女が決意をしていなかったら、アパートという監獄に閉じ込められたままだったろう。
(最初からこうしとけば……)
中には酒の力を借りてすり寄ってくる輩もいたが、それにさえ悦びを覚えていた。不埒な男など逆に自分から人気のない路地裏に誘い込み、自身の美しさを問うた後、静かに快楽と苦痛に歪めて沈めてゆく。
新しい誕生日とも言えよう10月31日、街中の細い路地での久方ぶりの行為に、身ごとしっとりと濡れてしまった。
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