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本日は心地の良い秋晴れ。
気温15度、湿度は40。
旅立ちには最適な気候だろう。
青い空の彼方へと吸い込まれていく飛行機を、ハルと越前は雲のそばで見送った。
「……行っちゃったね」
どれだけ目を凝らしても、瓏凪を乗せた飛行機はもう見えない。
ハルは背後にゆるゆると飛びながら横目で越前を見た。
綺麗な横顔は悲しみに染まることなく一点を見つめている。
無感情なわけじゃない。
ただ強くあろうとしているのだろう。
ハルはその心を見習い、風に合わせて旋回すると帰り道へと軌道修正した。
「もう学校に行っても瓏凪がいないなんて信じられないや。俺一人でもまた寮に遊びに行っていい?」
寂しさを紛らわせたくて話しかけると、越前は考える顔になった。
「……そうだな。そろそろ本格的にハルの期末対策を練っていこう」
「えっ」
「確か中間の分を取り戻すって約束だったな。しっかり見てやるから課題の提出だけは先に終わらせておけよ」
「げ、現実ぅ……!」
越前は打ちひしがれるハルにふっと笑った。
「俺もハルも、瓏凪にだけ頑張れとは言えないからな。期末が終わったら一度ネットで繋いでみるか」
「それって瓏凪と話せるってこと!?」
「あっちの都合がついたらな」
「やったぁ!」
どれだけ離れても、心の距離は変わらない。
沢山もらったものをまだ何ひとつ返せていないから、紡いだ絆だけは色褪せぬよう守り続けよう。
さよなら、元気で。
透き通る青い空にメッセージを送り、ハルは風の先にある未来へと顔を上げた。
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恋愛編 —了—
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