*遠足ハプニング

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「ハル…?」 瓏凪はハルと金井という予想外の組み合わせに驚いていた。 それもそうだろう。 教室では全く接点などなかったのだから。 金井はハルに目で合図を送ったが、当人は間に入るどころか救いを求めて瓏凪を見上げていた。 「おい、笠井。早く言えよ」 肘でつつかれても意思に従い足が動かない。 焦れた金井は越前の姿がまだないことを確かめてから、仕方なく自分で一歩を踏み出した。 「よぅ、瓏凪。ここでお前を待ってたんだよ。笠井がどうしても今日一緒にまわって欲しいって言うからさ」 「ハルが?」 「そうそう。ほら、こいつまだ友だち少ないだろ?だから俺らも別に構わないかなって」 金井がハルの肩に手を置き瓏凪に笑いかける。 大体の事態を察した瓏凪は、一瞬浮かんだ苦い顔を消すと金井達を順に見た。 「俺といても気まずいだけだろう?」 落ち着いた声で言い諭す。 金井は真顔になると声を抑えて言った。 「俺は、俺らは、お前と昔みたいに戻りたいと思ってる。あんな事にさえならなければ今でも俺らは…」 「金井」 瓏凪は金井の言葉を遮るとハルを手招きした。 「ハル、こっち」 すっかり固まっていたハルが金井の手を離れぎこちなく歩み寄る。 瓏凪はハルの腕を掴み、そばまで引き寄せた。 「ハル、越前は少し遅れて来るんだ。そっちを任せてもいいか?」 「任せるって…」 「多分あいつ、ついた時点でへばってるだろうからさ。頼んだぜ」 頼んだと言われても頭がついていかない。 瞬きも忘れて瓏凪を見上げると、不安を和らげるような笑みが返された。 「適当にあいつらの相手したらそっちに行くから、後で合流しよう。楽しみにしてる」 囁くように言い残し背を向ける。 瓏凪は金井の隣へ並んだ。 「おい笠井は?」 「俺がいればそれでいいんだろ?ハルを巻き込むな」 固い声音に金井は少し怯んだが、そこは取り巻き達が取りなした。 「ほら、行こうぜ大翔(ひろと)」 「瓏凪もそんな顔すんなって。せっかくだし楽しもうぜ!」 瓏凪は入り口に向かう流れに逆らわず、金井達に囲まれ行ってしまった。 残されたハルはしばらくその場を動く事が出来なかった。 楽しみにしていただけにこの落差は大きい。 呆然としていると左ポケットでスマホが音を立てた。 「あ…、越前?」 越前を頼むと言われたことを思い出し、「駅から出た」というメッセージに動き出す。 足は一歩ごとに速くなった。 すれ違わないように辺りを見回していると、ベンチにぐったり腰掛ける越前を見つけた。 「越前!?ど、どうしたの!?」 越前は傍目にも青い顔でハルを見上げた。 「ハル…?わざわざ迎えにきたのか?」 「うん。もしかして具合悪いの?」 「いや、電車も人混みも苦手なだけだ。瓏は?」 「うぅ。それがぁ…」 気持ちに整理がつかず、ハルの声が次第に落ち込んでいく。 「だから、俺のせいで瓏凪が…」 「別にハルのせいじゃないだろ。しかしあいつらもこりないな」 さらりと付け足された物騒なセリフ。 だがその横顔はいつもと変わらぬ冷静なものだ。 越前はちょうど瓏凪から届いたメッセージに目を通し、スマホをポケットに入れた。 「あっちは気にしなくていい。行こう」 「え、でも…」 「楽しみにしてたんだろ?瓏と合流するまで園内でも見て回ろう」 越前は瓏凪がすぐに戻ってくると確信しているようだ。 ハルはやっと安心すると、越前に並んで集合場所へ向かった。
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