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通学は自転車だ。
愛用の赤いマウンテンバイクで国道まで出たハルは、目の前に迫る小山を見上げた。
「もしかしてこの山、突っ切れるかも…?」
うまくいけば山を大きく迂回する国道より近道になりそうだ。
背中から吹き抜けた風に後押しされたハルは、正規ルートから大きく逸れた。
捨て置かれた田畑を抜けると、ひっそりと切り開かれた小山の入り口を発見した。
ハルは意気揚々と乗り込んだが、整備すらされていない荒れた山道はすぐに難所と化す。
不揃いな石だらけの道に、タイヤが連続して不快な音を立てた。
「はぁ…、はぁ…。きっつ…」
どう見ても自転車に不向きな獣道にハルの額が汗に濡れる。
剥き出しの土と、濃い野草の匂い。
迫ってくる石の段差。
引き返せとでも言いたげな鬱蒼とした緑が、上空でザワザワと大きく揺れた。
立ち漕ぎでも速度は容赦なく落ちていく。
息切れしたハルは、苦しい胸に顔をしかめた。
それでも限界手前で大きく息を吸うと、再び真っ直ぐ道の先を見据える。
風が前髪をかき上げ、ハルの揺るぎない瞳の中で瞳孔が僅かに収縮した。
異変が起きる。
それはピンと張り詰めた空気に木漏れ日だけが揺れる、一秒にも満たない時間。
乾いた土を撫でるように突風が巻き上がり、ハルの周りを取り囲んだ。
同時に自転車のタイヤが大地を離れ、ふわりと浮く。
「よし…!」
車輪が風の上を滑るように空回る。
止まりかけていた景色は急速に流れ出し、あっという間に山頂は迫った。
車体は高度を上げ、さっきまで上空で揺れていた木の葉の間を突き抜ければ、視界いっぱいにとびきりの青空が広がった。
「ひゃっほーぅ!!」
紙飛行機のように宙へと飛び出したハルが、ご機嫌な声と共に滑空しながら緑の中へと消えていく。
このまま下り道に差し掛かれば近道は大成功だ。
ガタガタと響きだした音は麓へ向けて遠ざかり、静けさを取り戻した空に鳶が一羽飛びたった。
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