秩序軋むプロローグ

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★   ★   ★  そんなテレストライアルたちのやり取りを、リリーは間近で聞いていた。 (ふふ、ふふふ! ばっちり聞こえてますっ!)  腕に刺さった細かいガラス片をちまちま抜きつつ、視線は決して三人から離さない。  間近。そう、十メートルも離れていない、植え込みの木影だ。  通常であればだれも、まして感覚の強化されたテレストライアルの三人組が、これほど接近されて見落とすことなどありえない。  しかし、それも詮無き事。なにしろジュエルデバイスがリリーにもたらした「好きなシチュエーションの再現」という異能力は、「なにもしない限り相手から観察されない存在でいられる」能力……すなわち、気配を完全に消し、認識されない副産物をももたらしてくれたのだ。 (しょ、〇学校のころコンプレックスだった影の薄さが、まさか、こんなところで本格開花するなんて、じ、人生はわからないですねっ……!? 最近の潜入調査(ストーキング)でも大活躍ですしっ! ま、つい最近まで能力なくてもできてたんですがっ。……深く考えるとちょっと泣ける)  つまり「ただ見ているだけ」を貫く限り、リリーは同族の中で上位に食い込むだけの才能を得ている。もちろん、攻撃行動などを行うと即座に見つかってしまうが、彼女にとってその問題はないに等しい。 (そしてやはり、うふふ、私の見立ては間違っていなかった)  自作のテレストライアルグッズから、とあるブロマイドを取り出す。  それは二人一組のバージョン、アレースとウェヌスが映っている写真だ。その中でさえ二人は言い合いをしている最中で、互いに明らかにいがみ合い、煽り立てあっている。  だが、この一見仲良くできる要素などないような二人こそが、リリーにとって大のお気に入りのカップリングなのだ。(他の組み合わせが嫌いなわけではない) (し、しかし。ど、どうせ私なんか、最終的につかまってしまいます……)  潜在能力はさておき、本質的な戦闘能力のないリリーが、三人の星姫銃士に長く抗い続けることはできない。能力の順調な成長が、自壊へのカウントダウンを意味するということも、なんとなく察せていた。 (ふふ、ならば、ならばこそですっ!)  そのうえで彼女は、不自然かつ不気味な笑みを浮かべる。  ようやく喧嘩をやめ、撤収していくテレストライアルたちの後を、リリーは遠巻きに見つめ続けていた。
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