狂気に沈む地の底から

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 魔王は素敵な夢を見ていた。  ふかふかで大きな大量のシュークリームに包まれて、今まさに、その全てが食べ放題であると言い渡されたところだった。  魔王の胸は高鳴る。夢の中だとわかってはいたが、むしろ夢の中だからこそ、中性脂肪も血圧も気にせず貪り尽くせるなんてまさに夢のようだと、至福の時間に心踊らせていた。 「戦う力を数値化することに成功しました」  しかし、玉座でうたた寝していた魔王は、部下Aの妙に甲高い声で現実へと急激に引き戻される。  急速に入れ替わった目の前の景色に魔王は少し混乱したが、すぐに頭を切り替えて考えた。  しかし考えた結果、部下Aの話がシュークリーム食べ放題に勝る魅力かあるのか、魔王は(はなは)だ疑問に思い、腹が立つ。その旨に関して部下Aへ文句を言おうとも考えたが、以前読んだ自己啓発本の一部を咄嗟(とっさ)に思い出し、何とか踏みとどまることに成功した。理不尽に部下を(おとし)めるのは悪い上司であると、既に学んでいた魔王に隙はない。  薄ぼんやりとした意識の焦点を何とか部下Aに向け、魔王は聞く。 「……なに、その数値化って?」  部下Aは嬉々として答える。魔王を至福のまどろみから解脱させてしまったことに対する戸惑いや申し訳無さは感じられない。 「言葉通り、その者の戦いに関する総合的な強さを数値に置き換えたものです。今までは誰がどのくらい強いとか、わりと曖昧なところがあったと思うのですが、この数値化によって、より正確な強さを計ることができます」 「ふぅん……」  シュークリームに比べれば毛ほどの興味も実益も無い話だということは理解したが、部下Aが嬉しそうに言い放つので、無下にすることもできず魔王は少し話を聞くことにした。
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