3/14
前へ
/419ページ
次へ
 そのまま店内を見渡した。十人くらいが座れそうなカウンター席。四人がけのテーブルが四席。  このフロアの奥には段差を設けた別のフロアがある。ガラス張りの窓際には上品な革のソファー席が並んでいた。  客は全部で六人だった。一人客もいればカップルもいる。  天沢は目線を一巡させてすぐに、カウンター席で飲んでいる女性に焦点を絞った。 ――うん。決めた。  二十代半ばの女。タイトスカートから伸びる脚は白く(なまめ)かしい。  天沢は落ち着いた動きで歩き出し、その女の隣にごく自然と座った。  女は訝しく視線を向ける。  だが天沢は動じずに尋ねた。 「東京出身の方ですか」 「ええ・・・・・・そうですが」  警戒した表情を浮かべたまま答える。 「良かった。東京の女性とお酒を飲むのが幼稚園の頃からの夢だったんですよ」 「はぁ」 「田舎者でして」 「はい・・・・・・?」 「いやー、今日は夢が叶った日になりましたよ。そうだ、お祝いに乾杯でもしましょう」  天沢はとぼけた顔でグラスをかかげた。  その途端、女は相好を崩した。 「ふっ。おもしろい人ね。いつもそうやって女の子に声かけてるんですか?」  挑発的な長いまつ毛がきらめいた。 「どうでしょうね。まずは一杯飲んでからお話をする、ってのはいかがでしょう」 「あら、上手に持っていくのね」 「では乾杯」  コツン――  キスをするようにグラスとグラスがぶつかった。
/419ページ

最初のコメントを投稿しよう!

211人が本棚に入れています
本棚に追加