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そのまま店内を見渡した。十人くらいが座れそうなカウンター席。四人がけのテーブルが四席。
このフロアの奥には段差を設けた別のフロアがある。ガラス張りの窓際には上品な革のソファー席が並んでいた。
客は全部で六人だった。一人客もいればカップルもいる。
天沢は目線を一巡させてすぐに、カウンター席で飲んでいる女性に焦点を絞った。
――うん。決めた。
二十代半ばの女。タイトスカートから伸びる脚は白く艶かしい。
天沢は落ち着いた動きで歩き出し、その女の隣にごく自然と座った。
女は訝しく視線を向ける。
だが天沢は動じずに尋ねた。
「東京出身の方ですか」
「ええ・・・・・・そうですが」
警戒した表情を浮かべたまま答える。
「良かった。東京の女性とお酒を飲むのが幼稚園の頃からの夢だったんですよ」
「はぁ」
「田舎者でして」
「はい・・・・・・?」
「いやー、今日は夢が叶った日になりましたよ。そうだ、お祝いに乾杯でもしましょう」
天沢はとぼけた顔でグラスをかかげた。
その途端、女は相好を崩した。
「ふっ。おもしろい人ね。いつもそうやって女の子に声かけてるんですか?」
挑発的な長いまつ毛がきらめいた。
「どうでしょうね。まずは一杯飲んでからお話をする、ってのはいかがでしょう」
「あら、上手に持っていくのね」
「では乾杯」
コツン――
キスをするようにグラスとグラスがぶつかった。
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