全裸ホップデイ

1/8
前へ
/8ページ
次へ
 今日の部屋は普段よりも広い。まだ一枚も脱いでいないのに早くも胸が高鳴りだした。 そう。今日は待ちに待った、週に1度の全裸ホップデイだ。  説明しておこう。 これは僕の趣味、いや生きがいと言っても過言ではない。この奇行のおかげで僕は日ごろ正気を保つことができているのかもしれない。  まぁこんな世の中では、一体何が正気なのかははっきりとはわからないのだが。  少なくとも身の回りの社会とやらとは、今のところ何とか上手く付き合えているはずだ。  こんな感じで、日常に対して劣等感や嫌悪感を抱きながらも、周りの人が主観で言う「社会人」として生活している。  そんな僕が週に1度ラブホテルの1室で素っ裸になり、思うがままに飛び跳ねたり、ベッドの上を転げまわったり、まあ他にも色々やっているのだが、、、 要は自分を思うがままに開放することができるという奇行。 それが通称、「全裸ホップデイ」だ。  もちろんだが他にも趣味はある。仕事が終わり家に帰ると、馬鹿げた動画や音楽を作っていて、あれはあれで自分を解放する重要な時間ではある。  しかしこの全裸ホップを初めて体験してしまったあの日以来、2位か3位くらいになってしまった。  今日に至るまでを振り返っておこうと思う。少し長くなってしまうが重要なところだから知っておいてもらいたい。 「この間の曲良い感じだったね。バラード調で。」  鞄を肩にかけたままベッドに寝そべり、インスタで流行りのKPOPアイドルのショートビデオを見ている明奈が目も合わせずに素っ気なく言った。 「結局ああいう曲が評判良いんだよね」  僕も素っ気なく答えながら鏡で自分の左頬の肌荒れを見ていた。全裸ホップ開始に向けてワイシャツを脱ぎ始めると、明奈がベッドの上を転がりながら近寄ってきて、僕のズボンのベルトを外し始めた。  そうだそうだ。明奈が誰なのかも説明しなければ。 明奈は僕のこの奇行にいつも付き合ってくれている大学時代の一つ下の後輩だ。サークルや部活が同じだったわけではなく、初めて話したのは社会学のグループディスカッションだった。 当時は学内で会うと少しだけ話をしたり、何度かカフェテリアで偶然会った時にご飯を一緒に食べたぐらいの関係だった。  今年の春、明奈は就職した。待遇はそこまで良くはないが、同期の数がそれなりに多く賑やかで割と楽しい会社らしい。  そして休日はギリギリのラインのセクシーショットをSNSに投稿し、小遣いとは呼ぶには高いぐらい広告費とやらを稼いだり、コスメを貰ったりしている。  実際に学生時代から人気があったため、恋やセックスの噂も少なくない明奈だったが、意外と冷めていることが多かった。  今時の男なら大体の奴が発情するであろう彼女が、なぜ特にイケてもいない僕の奇行に付き合っているのか、今のところ本当の理由はわからない。 「常に上っ面でストレスだらけの日々の中で、そうやって全部脱ぎ捨てちゃって感情のままにはしゃぐ人って中々いないからさ。 それを見てる私も何となく自分を保つことができる感じがするんだよね。」 と、慣れない日本酒を飲んで少し良い気分になった明奈が前に一度そう言っていたのを覚えている。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加