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がらんとした部屋に入り、私はわざと部屋の中を見渡さなかった。
なるべく何も視界に入れないようにして、クローゼットを開けた。毎日、服の出し入れだけでも大変で、ぎゅうぎゅうに詰まっていた服が今は全然入っていない。
クローゼットだけではない。昼間に荷物のほとんどを運び出してしまったから、もうこの部屋はスカスカだ。服や本、アクセサリーたちはダンボールに詰められて、今頃は東京へ向かう引っ越し屋さんのトラックの中だ。
「お風呂入って、寝よ」
大きくため息を吐き出して、私は明日も着るジャケットをクローゼットの中にしまった。
視界の片隅で、ベッドの上に置いたままのスマホのディスプレイが光ったのがわかった。スマホを拾い、LINEを開くと『今日は楽しかった! 夏にまた遊ぼうね!』というミサキからのメッセージが見えた。
次に会うのは夏なんだな。そんなことを考えていたらまた寂しくなりそうなので私は、スマホをベッドの上に放り投げた。
憧れの東京での大学生活、夢の一人暮らし、ずっと待ち望んでいた日々がもう明日に迫っている。それなのに、どうして胸の奥が締め付けられそうなんだろう。さっきカラオケでドリンクバーを飲みすぎたかな、違う。それとも昼のカレーを食べすぎたんだろうか、違う。
その答えを本当は知っている。しかし、私はそれを思い浮かべないようにして、私はお風呂場に向かった。
パパとママはもう眠っている。引っ越し前夜、この家で起きているのは私だけだ。外は風が強くて、家が少し揺れて軋んでいた。
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