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偶然
ダブついたブルージーンズが似合う細い腰、サイズの小さなTシャツを盛り上げる大きめのバスト、サイドと後頭部にボリュームを持たせたショートヘア、両手を上に持ち上げて背骨を伸ばす仕草はそのままグラビアから抜け出てきたかのよう。だがその女は大量殺人犯だ。女がこれまで人を殺してきた数は14人。全く危なげなく人に見られることも犯行がバレることもなかった。凶器は主に刃物でその時々によってナイフだったり包丁だったりするが持ち帰って地中に埋めてしまえば見つかることもない。今日もまたサラリーマンを殺した。
「良いか」「いいわ」「どのくらい良い」「殺したいくらい良いわ」「良いなら殺すな」「いいえ殺すわ」「殺しながらイクのか」「イク時は私が殺される瞬間よ」「素晴らしい」
セックスは気持ち良くて満足したが終わった途端煙草の煙を頬に浴びせられ腹が立ったので殺した。女は躊躇わない。躊躇いの無さで人に後れをとったことがなく、ゆえに殺しを妨げられたことも一度だってなかった。思った時には刺している。いや脳が殺意を出し終える時には刃物が相手の身体に刺さり始めている。刺している途中で「殺そう」と思うくらいだ。手近な場所に刃物が無い時はひと呼吸おいて機会を待つ。そして機会が訪れた時にはこれ以上ないタイミングで相手の一番柔らかい部分に刃物を突き立てるのだ。今日のサラリーマンは身体を鍛えているのかどこもかしこも筋肉で締まっていたので後ろから口の中にアイスピックを突っ込んだ。
女は背骨を伸ばしながら殺しのはずみで電源の入った備え付けのテレビから流れて来るニュースを何と無しに見ながら、殺したサラリーマンの服に手を突っ込んで持ち物を確認した。スーツの上着右ポケットから黒い手袋が出て来た。薄手で伸びる材質の手袋が左右ひとつずつ。左ポケットからは茶色の小瓶と小さく巻いたピアノ線のようなもの。女はそれが何なのかしばらく考えた後、テレビを見ながら腹を抱えて笑った。
「……サラリーマン風、睡眠薬を使ってひも状のもので首を絞め、レイプした後殺す、あるいは順不同、指紋は一切検出されずで……あはぁ」
女は近頃日本を震撼させているという連続婦女暴行殺人犯を知らずに仕留めてしまったのだ。記念に陰茎でも持ち帰ろうかとも思ったがバカバカしいのでやめにした。CMをまたいで次のニュースでは男性ばかりを狙った殺人鬼が取り上げられ、女はまた腹を抱えて笑い転げた。
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