4 近寄れなかった理由

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「じゃあ、僕の姿を見かけるといつも足早に去っていったのも?」 「人前でお花を降らせるわけにはいかないでしょう」 「たまに同席しなきゃいけないときは、ものすごくムスッとしてたのも?」 「平常心を保てるように訓練した結果、ああなったの」 「舞踏会でダンスを断ったのも?」 「踊ってたら、一曲終わるころにはきっと花まみれになってたわ」  でも本当に残念だった……と心から悔しそうに付け加えたフルーラは、リシャードの視線に気がついて、恥ずかしそうに下を向いた。 「――ルラ」  小さい頃のような呼び掛けにフルーラがびくっとすると、色とりどりの細かい花が散る。  降下していく花々を目で追い、リシャードは大きく息を吸い込んだ。 「じゃあ、君は本当に僕のことを……」 「今日の夕食後、私の縁談がまとまりそうだと両親が話してるのを偶然聞いちゃったの。明日にでも本人に話そうなんて声を弾ませて……」  フルーラがしゅんとすると、花も現れなくなる。 「王女の務めとして、決められた相手のもとへ嫁がなきゃいけないのは分かってる。でも、お姉さまたちと同じように輿入れ先が外国だとしたら、もうあなたに会うことすらできないでしょう。……どうしても思い出が欲しくなって」 「――思い出だけでいいのか?」 「本当は……」  あなたとの未来も欲しかった、という涙声は、リシャードの唇で塞がれた。
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