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5 くちづけを思い出に
「ん……っ」
初めてのくちづけは、フルーラが思い描いていたものとは少し違っていた。
もっと深くて、ずっと熱くて、はるかに親密だった。
最初は甘く重ねられているだけだったリシャードの唇は、すぐにフルーラのそれを柔らかく食み始めた。
その動きに翻弄されるように少し開いたフルーラの唇の隙間から舌が入り込み、誘いかけるように優しく擽る。
「……っふ……っ」
驚きでこわばった身体の力をフルーラが緩め、恥ずかしそうに応えるようになるまで、リシャードは解放してくれなかった。
ようやく唇を離したリシャードは、フルーラの髪についた小さな花びらを摘まむと、感心したようにあたりを見回した。
「……すごいな」
いつの間にか二人が腰掛けている周りには、花籠を倒しでもしたかのように様々な色や形をした花が散らばっていた。
「ご、ごめんなさい」
「どうして?」
「私ばっかり、こんなにドキドキして……」
フルーラは滲んだ目許を指先で拭う。
胸の中では、喜びと哀しみが複雑に入り交じっていた。
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