5 くちづけを思い出に

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 リシャードのところにも、かなりの数の縁談が持ち込まれていることをフルーラは知っている。  おしゃべりな女官たちが『お父上の公爵様は慎重に構えていらっしゃるそうだけど、売り込んでくる側のご令嬢たちはそれはもう、どなたも物凄く前のめりなんですって!』などと噂しているのを聞いてしまった。  初めて剣の模擬試合に出場したころから現在に至るまで、武術にも学業にも優れ、端正な容姿を持つこの公爵令息は、同世代の女性たちから常に熱い眼差しを送られている。  その中の誰かと共にリシャードは未来を歩んでいくことになるのだろう。  今この時どれだけそばにいたとしても、自分はリシャードの人生の部外者で、幼なじみを笠に着た邪魔者なのだと、改めてフルーラは痛いほど感じた。 「――リシャード」  つとめて冷静な声を出す。顔を見たら泣き出してしまいそうだと、フルーラは床に落ちた花々の方に視線を下げた。 「こんなにたくさんの幸せなときめきをありがとう。私、わがままだったわね。あなたの気持ちを全く考えないで、一方的に自分の想いばかりを押し付けて……」  大好きな人と唇を重ねた記憶を宝物のように胸にしまい、できるだけ早くここを立ち去るべきなのだと、フルーラは自分に言い聞かせる。 「もう、これで十分――」 「ルラ」  リシャードは素早くフルーラの手を取ると、自分の胸に押し当てた。
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