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扉を開け、人気のない廊下を歩きながら、リシャードは腕の中のフルーラに向かって少し誇らしげに言う。
「難なく君を運べるようになっただろう?」
きょとんとしたフルーラは、やがて何か思い当たったような顔になった。
「――私が池に突き落とされたときのことね?」
リシャードは不本意そうに眉根を寄せる。
「止められなくて悪かったとは思ってるけど……。あれは僕が突き落としたんじゃない」
「えっ」
「池に浮かんでる葉っぱに君が手を伸ばそうとして足を滑らせて、危ないと思って駆け寄った僕が君に触れたときには、もう間に合わなかったんだ」
「……そうだったの?」
ついでに言わせてもらうと、とリシャードは続けた。
「カエルも毛虫も当時は最高の贈り物のつもりだったし、マイアが憶えてたら証言してくれると思うけど、〝苦い草のしぼり汁〟の件だって、風邪気味の君が薬湯を嫌がるから、『甘い飲み物だ』って言って飲ませようとしたんだ」
フルーラの中で、いたずらが過ぎる男の子だったあのころのリシャードが、不器用ながら姫君のために奮闘する小さな騎士へと変わっていく。
「誤解しててごめんなさい……。じゃあ、あのときも本気で私を運ぼうとしてくれてたのね?」
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