1 フルーラの願い

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 リシャードが真正面から見つめると、フルーラは表情を硬くして視線をずらす。ほら、いつもこうなんだとリシャードは舌打ちしたくなった。  池に落ちるはめになろうが、カエルや虫に泣かされようが、しばらくするとニコニコして「あそぼー」と後ろをついてきていた幼なじみは、いつのころからか徹底的にリシャードを避けるようになった。こんなふうにまともに話をするのなんて、六、七年ぶりだろう。 「こんな夜中に」 「もう寝てたわよね、ごめんなさい」 「一国の王女が、供もつけずに」 「マイアと一緒に来たのよ。朝には迎えに来てくれるわ」  フルーラは、リシャードもよく知っている乳母の名を挙げた。  ほとんどの週末、遠乗りが好きなリシャードは、ごく少数の従者を伴って郊外に建つこの別荘に滞在している。 「マイアもマイアだ。僕とわずかな従者しかいない邸に、輿入れ前の姫をひとりで置いていくなんて……」  フルーラは傷ついたように目を伏せ、「輿入れ前……」と呟いた。 「そうだろう? いくら君が僕と……」 「――あのね、私に縁談が来たの」  深刻な様子で告げたフルーラに、リシャードは「知ってるんじゃないか……」と独りごとを言うと、怒ったような顔をして訊ねた。 「嫌なのか?」 「嫌に決まってる……!」  切実そうな即答を受けて、眉間の皺を深くしたリシャードは荒々しく立ち上がった。 「よく解ったから、もう帰ってくれ」 「リシャード、それでね」 「これ以上何を言うことがあるんだ?」  睨むようにフルーラの顔を見下ろしたリシャードは、はっと息を呑む。  フルーラの碧色の瞳には、今にも決壊しそうな涙の水面ができていた。 「お願いがあって来たの」
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