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9 ふたりの未来
「――ルラ……?」
リシャードが呼び掛けると、彼の胸に顔をうずめるようにして抱かれているフルーラからは何も返事がなかった。
代わりに、寝息のような呼吸音が聴こえてくる。
ずいぶん疲れさせてしまったのだろうと、リシャードはフルーラの髪にくちづけを落とした。
「……おやすみ」
花園のような香りに満ちた室内に、静寂が訪れる。
リシャードがまどろみ始めると、フルーラはそっと目を開けた。
少し顔を上げて大切な人を見つめ、このまま時が止まってしまえばいいのにと願う。
長い間秘めてきた想いが届いたこの夜のことを、フルーラは決して忘れることはないだろう。
王女としての務めを果たすため、フルーラは近い将来、両親が決めた人のもとへ輿入れしなくてはならない。
姉たちもそうしてきた。そして、伴侶となった相手と愛を育み、幸せになった。
いつかは私もそんなふうになれるのかしら……と考えたフルーラの目から涙が溢れ出す。
リシャードではない誰かと家庭を築き、子供をもうけ、一緒に歳を取っていく。
まるで想像がつかないことだった。夜の森に放り込まれたように真っ暗で何も見えない。
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