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「……っ」
こみ上げてくる嗚咽を、フルーラは懸命にこらえる。
好きな人が好きだと言ってくれて、愛を交わすことができた。それだけで十分過ぎるはずだと自身に言い聞かせようとするのに、素直に頷くことができない。
リシャードがいない未来なんて。
「いや……」
「――何が?」
突然、リシャードのまぶたが開き、フルーラはうろたえた。
「お、起きてたの……!?」
リシャードの指が、フルーラの濡れた目尻を拭う。
「小さいころ、マイアたちから『泣き虫姫さま』なんて呼ばれてたけど、そこは変わってないな」
リシャードはフルーラの顎を優しく掴んで、視線を合わせた。
「それで、こんな幸せな夜に、お姫さまはどうして一人で泣いてるんだ?」
口を閉ざすフルーラに、リシャードは質問を重ねる。
「嬉し泣きってわけでもなさそうだし。……まだ痛い?」
フルーラは首を横に振ると、震える声で言った。
「か……覚悟してたはずなのに、あなたと離れてお嫁に行かなきゃいけないって思ったら……ごめんなさい」
リシャードは「あれ?」と呟いて、考え込むような顔つきになったかと思うと、突然声を上げて笑い出した。
「リ、リシャード?」
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