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リシャードは再び呆然として立ちすくんだ後、はたと我に返り、「いやいや待て待て」と、フルーラの向かい側に座り直した。
「君が僕のことを好きっていうのは、さすがに無理があるだろう」
「どうしてよ?」
「小さい頃、僕は君を泣かせてばかりだったし」
「度を越した悪ふざけは時々あったけど、もう許してるって言ったでしょ。のろまな私のことを見限らずに、いつも一緒にいてくれたじゃない」
「でも、十歳を過ぎたころからは、無視されたり避けられたりするようになったし」
「そ、それは……」
リシャードの瞳が哀しげに翳る。
「君が初めて舞踏会に出席したときだって」
「……あ」
「そっけなくダンスを断られたよな……」
王女の最初のダンスは、それなりの家柄の同年代の男性が申し込むのが慣例だ。
公爵家令息のリシャードなら申し分のない相手だったはずなのに、フルーラは冷たく顔をそむけて誘いを断ったのだ。
リシャードの心の中には、そのときの痛手が今も古傷となって残っている。
「ご、ごめんね……。あれには理由があったの」
「どんな理由だよ」
フルーラは睫毛を伏せて、恥ずかしそうに訊ねた。
「……そばに、行ってもいい?」
「え……」
返事を待たずにフルーラは立ち上がると、リシャードが座っている長椅子まで歩いてきて、すぐ隣に腰を下ろした。
「えっと、それで……」
フルーラはぎこちなくリシャードの方に顔を向ける。
「私を見てくれる……?」
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