去りがたい。別れがたい。離れがたい。

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この春に私は上京した。 私が住んでいた町は田舎でもなく、かといって都会でもない街。 初めて実家を出る。 理由は現在付き合っている彼と一緒に住みたかった。ずっと、一緒にいたいと思える相手だったから。 住み慣れた場所から離れる。知っている人は彼だけ。仕事は見つかるのか、友達はできるか、一緒に住んだことで彼は私に幻滅しないか。不安はずっとつきまとっていた。それでも、彼と一緒にいたい気持ちでいっぱいだった。 だから、だからこそ私にとって大きな決断だった。 両親は古い考え方をする性格でもちろん大反対。彼の誠実な対応と、私自身がやりたい事を通す性格だと分かっていたから、紆余曲折あったけど最後には「応援してる。」という言葉がとてつもなく嬉しかった。 そして、その言葉を聞いた瞬間涙が溢れとまらなかった。 最後の日には両親に感謝を綴った(つづった)手紙を書いた。書いている途中に涙が零れ落ち、便箋は所々がぐちゃぐちゃで読めない所もあっただろう。 これまでの感謝がほんの少しでも伝わればいい。 引っ越して一週間は彼と一緒に居られる事があまりにも楽しくて幸せで最高のひととき。瞬く間に過ぎていった。私は彼と過ごす瞬間瞬間を生涯忘れないだろう。 だが次第に、故郷が恋しくなった。 家族の顔がたまらなく見たかった。 話したかった。電話でだって話せる、ビデオ通話だってできる。でも、直接顔を見て話したい。 そんな思いが日に日に強くなり、涙を流す日々も多くなった。 お母さんが自分は充実した生活を送っていることを、私が心配しないように連絡をくれた事も辛かった。本当は寂しい気持ちを隠すために連絡をくれていた事も分かっていたから。 今になって思えばホームシックだったんだろう。彼にその事を伝えると、呆気(あっけ)からんとして、ごく当たり前のようにこう言った。 「ホームシックになれることって素敵な事だ。それだけ、会いたいと恋しいと思えることは幸せなことだ。」 家に帰りたいと思っていた事に罪悪感があった私にとって、凄く救われる言葉だった。 「ありがとう。気が楽になった。」そのままの気持ちを伝えた。 住めば都。時の流れとは恐ろしいもので、今は此処が自分の家だと感じる。楽しく幸せに暮らしている。彼がすごくすごく気遣ってくれているのが、大切にしてくれているのが、一緒に住んだことでまた実感出来たからだ。きっと私が気付いていない所でも、いっぱい考えてくれているんだろう。それだけは、伝わる。 私も彼の気持ちに対する思いにこたえていければいいと思う。 こたえたい。 彼に出会えて良かった。
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