幸福だったかもしれない王子

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その日は晴れた日だった。 俺は朝起きて、ずっと付き合ってきた葦と別れることを決意した。薄々わかっていたことだが、旅行したいツバメと定住したい葦はどうしても合わない。 ついに、別れ、仲間のいるエジプトを目指すことを決断し、出発した。 とはいえ、ずっとは飛んでいられない。ある像の下で休むことにした。 あー、疲れた。おやすみなさーい。 その時、上から雫が降ってきた。 なんだよ、いきなり雨か?さっきまで晴れてたのに。 見上げてみると、その雫は像である王子の目から流れているものだった。 は?こいつ動くのか?像なのに? そう思ったけれど、いつまで経っても泣き続けているからちょっと可哀想になってくる。 ここで寝ようとしたのも何かの縁だし、聞いてやるか。 「なんなんだよ?どうかしたのか?」 像の王子は少し嬉しそうな顔をした後、すぐに顔をしかめて話し出した。 「私は生前、幸福な王子、って呼ばれてたんだ」 なんだこいつ、いきなり身の上話始めやがった。そう思いながらもそのまま続きを聞く。 「それは、きれいなものしか見てこなかったから。でも、ここに置かれて、正しい世界の姿を知ったんだ。心臓は鉛でできてるけど、悲しまずにはいられない。そこで、君にお願いがあるんだけど、この剣のルビーを、あそこの母親にあげてくれないか?子どもが熱を出してオレンジを食べたがっているのに貧しいせいで水しかないんだ」 「なんで俺が?エジプトに行くんだ、無理だよ」 断った瞬間に王子が悲しそうな顔を浮かべた。なんだか良心が痛む。 「……わかったよ!今回だけな」 剣から宝石を取り、届けた。冬も近づき、寒いはずなのに、なんだかほかほかしているような気持ちになった。人助けも悪くないかもしれない。
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