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「単刀直入に訊くが、あのお札はどこで手に入れたんだい?」
「木根さん、でしたっけ?」
「あぁ」
「木根さんは自分の財布に入ってるお金がどこのお釣りか、いつから入ってるか覚えてるんですか?」
「では、意図して手に入れたものではなく、いつの間にか持っていた。と?」
「はい」
「不思議に思わなかったのかい?」
「何がですか?」
「渋沢栄一の1万円札が財布に入っていたんだぞ」
「だから、それのどこが不思議なんですか?」
多少は苛ついているようだ。
「だいたい、酷いもんですよ。僕の万札を没収したまま返してくれないんですから。
死活問題ですよ。1万円なんて大学生には大金なんですから。
警察が都民の金を盗んだと記事にして欲しいくらいです」
どうも話がかみ合わない。
この饒舌さは、嘘故なのか、生来のものなのか。
もう少し揺さぶる必要がある。
幸い、ここは彼の自宅だ。
喫茶店などと違って、逃げられることはない。
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