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03.平成33年の冬
このアパートの上空にも、嘘を吐いたような昼の月があるに違いない。
「お前はこの世界の異物だ」と罵りながら、
侮蔑の眼差しを、3ケルビンの漆黒で極寒の彼方から送り込んでいる。
「おい、なんだこれは!?」
思わず、声を荒げてしまった。
背中に氷を放り込まれた感覚に、敵意を剝き出しにしてしまったのだ。
「木根さん、まさか500円玉まで偽物だなんて言う気じゃないですよね?」
「偽物だろう?」
「じゃぁ、調べてくださいよ。その代わり、木根さんが持ってる500円と交換で」
案外、あっさりと渡しやがるものだ。
それにしても、この余裕は一体何だ?
過去に対面した愉快犯とも印象が違う。
嘘の自覚がないだけか?
たとえば駅の自動改札機を通過する時、明らか不正乗車の奴は挙動が不審だ。
すぐバレる。体のどこかに緊張が生まれるからだ。
だが、間違えた運賃で乗っただけの場合、
警告チャイム音が鳴ろうが、フラップドアが閉じようが、そのまま出てしまうことがある。
堂々とした図太い神経の持ち主かも知れないが、
多くは警告の対象が自分ではないと信じて疑わないからだ。
俺はポケットを漁り見付けた『平成七年』と刻印された500円硬貨を渡した。
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