03.平成33年の冬

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ローテーブルの上には2枚の500円硬貨。 「こうして見ると、昔の方は白っぽいんですね」 「そうだ。素材が違う」 「どうして、デザインだけではなく、素材も変えたんですか?」 乗りかかった船だ。 いや、この場合は、行き掛けの駄賃というべきか。 俺は大学生に講義を行った。 1990年代後半から、韓国の500ウォン硬貨――当時のレートで約50円――を変造した軽犯罪が多発した。 変造硬貨事件、或いは500ウォン事件と呼ばれていた。 500ウォン硬貨は500円硬貨と比べてやや重いものの、直径と色は同じだった。 そのため、当時の自動販売機では500ウォンの表面に十数か所の穴を掘ったり、削ったりして質量を減らすだけで、騙されてしまったのだ。 俺自身、高校生の時に近所の自販機で炭酸飲料を買ったお釣りの中に変造500ウォンが紛れており、衝撃を受けた。 今思えば、あの経験が捜査二課を目指した原点だったかも知れない。
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