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ことの発端は、とある偽札事件だった。
使用したのは、都内の私立大学に通う21歳の男子学生だ。
彼は一貫して無罪を主張した。
奇妙な事件だった。
刑事をやっていれば、サイコ野郎や詐欺師と遭遇する。
記者をやっていれば、イカレ野郎や予言者と対峙する。
元刑事で現役フリーランス記者の俺は様々な人種とやりあってきた。
そいつがどの程度の嘘つきかなんて逢った瞬間に分かるってもんだ。
背後に巨大な組織が存在している、と睨むベテラン刑事の勘。
友人や田舎の親に取材を進める程、違和感を覚える記者の観。
俺の目に見えるはずの世界が音を立てて瓦解していった。
刑事としても、記者としても、同じ結論に至ったのだから。
この青年は嘘をついていない――。
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