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嘘を吐いたような昼の月が上空にあるはずだ。
見えていないだけで存在している。
見えないものをあると言ってしまえば、逆にこっちが嘘つき呼ばわりだ。
俺は小室との会食を思い出しながら、目的地に向かっていた。
昨夜、漆黒を従えた夜の月は、歌舞伎町を歩く俺など無関心に思えた。
夜が明けた今は尚更無関心だろう。
姿さえ現さないのだから。
なぜ、前科もない普通の大学生が偽札を持っていたのか?
なぜ、精巧な偽札をつくる技術を持ちながら、流通していない紙幣を選んだのか?
俺は自分の目で確かめるつもりだ。
目で見たものしか信じない。
これは、刑事時代も記者である今も変わらないポリシーだ。
使用未遂で押収された偽札は、科警研に送致された。
真贋鑑定を行うまでもないが、調査が必要だからだ。
結果、国立印刷局の技術者も交えた鑑定結果は『真札』だった。
今年――2021年――9月1日から印刷が始まったため、紙幣としては存在している。
印刷局から流出したという見解で落ち着くはずだった。
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