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初めての告白は少し喉に詰まった。
けれどその瞬間、告白ごと飲み込むような口づけが降ってくる。
目の前に青柳の硬い前髪。
意外と長いまつ毛が震えていた。
青柳とキスをしている。
瞼を閉じることも忘れて、ただ少し荒れた唇を感じていた。
触れるだけの口づけはすぐに解けた。薄い唇を目で追う暁に青柳は苦く顔を顰める。
「……ごめん」
「いや、…大丈夫」
言ってから大丈夫は違うな、と青柳の腕にシャツの上から触れる。手繰り寄せるように太い首に抱きつく。すかさず背中を抱き返えしてくれた。
頬を寄せた胸の熱さと鼓動の速さに、本当に好きだと思ってくれているんだと涙が出そうになる。
あの青柳が。信じられない。
ずっと見ていたのは暁の方だ。大教室の端で、すれ違う廊下で、本間ゼミの研究室で。板書する横顔を、友人と楽しそうに談笑する後ろ姿を、教授の試問に返答する真剣な顔を、そっと見つめていた。
こっちを向いて欲しいなんて思いもしなかった。絶対に叶わない望みだと諦めていた。
奇跡のような体温の交わりにうっとりと目を閉じる。人目を忘れて、ずっと触れたかった温もりを独り占めする。高い青柳の体温は秋の日和に気持ちがよくて手放し難かった。
しばらくそうしていたけれど、ひやりとした風に暁が肩を震わせると青柳はそっと体を離した。すっとデイパックからウインドブレーカーを取り出して渡してくれる。そして冷たさを確かめるように暁の頬を撫でてから手を差し出した。
暁は汗の冷め始めた体にサイズの大きな上着を羽織ってその手を取った。
「帰ろか」
手を繋いで立ち上がる。
まだ日暮れまで間があるけれど、次の講義の時間が迫っていた。
ゆっくりと二人で日常に帰る。
けれど、ここで新しく紡いだ関係はそのままにあるのだ。そう思うと自然と笑顔が浮かんだ。
見上げれば青柳もふっと笑う。
ふわふわとした多幸感が淡い初秋の光を帯びて辺りに漂う。
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