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もしそうだったら少し気まずい、と頭一つ分上にある青柳の横顔を見上げる。
骨張った輪郭に高い鼻、厚みのある眉のあたりが日本人離れした印象を与える。しかし唇は意外と薄く知的な感がある。
低く抑揚をおさえた話し方が相まって、彼の硬派なイメージを作っていた。
喋ってみれば思いの外気安い男なんだけれど、と歩幅の広い青柳に時々小走りでついて行った。学舎を出た辺りで歩調を落とした青柳が暁を振り返って何故か眉を下げる。
「川和食べられへんもんある?」
「あんまりない」
「じゃあ俺が決めていい?」
「うん」
どの道駅前のファストフード店のどれかだろうと適当に肯く。しかし大学から歩いてすぐの駅まで来た青柳はIC乗車カードを取り出した。
「…電車乗るの?」
「あ、カード持ってる?」
「持ってるけど」
想像より遠くに行くつもりの青柳にどきどきとする。勝手にそんなふうに思う自分に戸惑いながら、改札を抜けてホームに降りた。
奈良駅方面のホームに立った暁は掲示板を見上げて行き先を推理する。終点の奈良駅まであまり駅数はない。それとも途中の大和西大寺で乗り換えるのだろうか。
午前の中途半端な時間のせいかホームに人は少なかった。向かいに来た大阪方面行きの電車も疎らな乗客を乗せて発車する。それを目で追いながら、進学のために地元を離れたけれどこっちに来てからあまりどこへも出掛けていないなと気づいた。
元々外に出るタイプではないけれど奈良に住んで一年と半年、そこまで親しい友人もいない。そうなると益々出不精に磨きが掛かって、アパートと大学とバイト先の学習塾を行き来するだけの生活が続いていた。
不満はないけれど味気ない毎日。
あ、いい天気。
ふと駅舎の隙間から空を見上げれば所々雲が浮かぶだけのいい日和だった。十月も半ばに入れば気温も下がる。冷たく感じる風に、ほかほかとした日差しがとても気持ちよかった。
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