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自分の顔が男にしては線の細いことは知っている。切長の目も、細い鼻筋も、尖った顎も、あまり好きではない。それをまさか青柳に「綺麗」と言ってもらえるとは思わなかった。
動揺が過ぎて、瞬間言葉が頭から飛ぶ。
「えーと、別に、綺麗ではないけど、大丈夫、です」
「大丈夫?」
「…うん、大丈夫」
「なにが」
「あー、機嫌が」
「……あ、そう。なら良かった」
そう言った青柳はすっと目を逸らすと窓の外を眺めた。
そこからは取り止めのない話に終始した。専ら互いに興味のある専攻学科に纏わることで、暁は青柳の興味の対象ははっきりしているんだなと改めて感じた。
本間先生の授業でもそれは実感していた。教授の著者はもちろん、その周辺の書籍もよく目を通している。つけ焼刃で一浚い読みつけただけの暁では歯が立たないほど、青柳の探究心は深かった。
彼の専攻は日本語学や近現代よりも古文。ジャンルでいうと上代。でも中古も嫌いではない。ゆくゆくは大学に残りたいと考えているようだった。
訥々と、けれど確かな熱量で話をする青柳の精悍な顔を見上げながら、暁も釣られるように会話にのめり込んだ。
気づけば終点の近鉄奈良駅に着いていた。当初の予定通りといったふうの青柳について電車を降り改札を抜ける。上の駅ビルかしらと目当てをつけるも、駅舎を離れた青柳はすいすいと駅前の坂を登っていった。
えっと、昼飯行かないかって誘われた気がするんだけど。
戸惑いながら、どんどんと奈良公園の脇を東に進む大きな背中を追いかける。まるで散歩をするような間延びした足取りで青柳はスニーカーの底を鳴らす。気持ちの良さそうなその横顔に、暁は問うのをやめた。
時々リーチ差に気づいて歩調を落としてくれる。あまりこの辺りに明るくない暁のために地理の説明をつけ加える青柳の隣をのんびりと歩いた。
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