番外編 ありがとう、おめでとう、よろしくね その11 Xmas

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番外編 ありがとう、おめでとう、よろしくね その11 Xmas

 ☆本日二度の更新します~ 続きます~   なにせ柚希にとってはどこに出しても恥ずかしくのない、自慢の弟なのだから、和哉がそんな風に自分を卑下したような素振りを見せたことにむきになってしまった。 「なんで? お前はこんなに『いいお顔』なのに気に入ってないの? 周りから羨ましがられるだろ? 端整で華やかだけど品も良くて感じもいい。すごく贅沢だぞ?」  するとまた『兄さんは何もわかっていない』とたまに窘められる時のように呆れたような失望されたような顔をされたから、柚希はも黙っていられなくなった。柚希の中では弟にがっかりされるのが一番応えることなのだから。 「ちゃんと話せよ? 今俺が話した中で、何が駄目だった?」 「·····この顔は、父さんと似てるから」 「敦哉さんと? そりゃ確かに似てるよな。どっちも美男だ。敦哉さん本当に若々しくて、髭生やさないと年下に見られがちだからって、久しぶりにあったら髭生えてた。あれ、最高にセクシーだったよな 」 みるみるうちに顔色をなくして和哉が黙りこくってから、急に柚希のカーディガンの前を寛げると素肌を晒させ、急に外気に触れて鳥肌をたてた柚希は、ガブッと鎖骨の上を齧られた。 「ひい、なんだよ急に! 齧るなって。ワンちゃんは卒業したんだろ?」 「·····柚希って本当に父さんのこと大好きだよね? 僕に見せないような顔して敦哉さん、なんて甘い声だして呼んでうっとりしてるの見ると本当に気に入らない気分になる」 「なんだ、カズ。ヤキモチ?」    鼻歌でも歌いそうな調子で揶揄ったら、本当に和哉が怒り出しそうだったので先回りして頬を悩ましく撫ぜて宥めてやった。 「ヤキモチ焼いて悪いか! 柚希の初恋の相手って父さんだろ? だから成長して似てきた僕のことも、顔立ちから気に入ったんだろ?」 柚希は和哉の剣幕に驚いて目を見張る。弟がそんなふうに思っていたなど考えても見なかったからだ。 「え?!! 俺の初恋は幼稚園の時、ちょっぴりおやつのねじりパンを分けてくれたミナちゃんだよ? 先っちょの砂糖タップリでかりかりのとこくれたから……。 んっあぁ。乳首齧るなって、ああ。舐めるなあ」 「嘘だ。違わない。柚希はさ、父さんの顔見上げていつも頬を染めて嬉しそうに話してたよ? 」 和哉に胸元で喋られるとこそばゆさがまして身悶えながらも訂正した。 「ちがう、違うよ。それは、敦也さんがあ。あっ。はあっ。カズの·····」 「僕の?」 「ち、父親だから。小さい頃もだけど、今もさ。カズが年を重ねたらこんな感じの素敵な(ひと)になるのかなって·····そう思ったら、やっぱ、愛しくなるだろ? そんなんしょうがなっ·····、あっ、バカ、和哉ぁ!」  鮮やかな手つきで柚希のゆったりしたパジャマのズボンは大根でも引っこ抜くかのようにすぱっと脱がされ、あっという間に柚希の手が届かぬ遠くに放り投げられた。 (ひいい、紐パン脱げる!!) ついでにもっていかれそうになった紐パンを必死で掴むが、和哉が強引に獲物を貪る狼のように鼻先を胸と言わず上半身に音をたてた口づけを繰り返してくる。  たまに味見する様に歯を当てられ、想うさま吸われるたびにちりちりと赤い花が弾け柚希の真っ白な肌に散っていく。その悩ましい痛みを皮切りに突然始まった前戯がいつもより気ぜわしく雑な動きに感じて、柚希は酒で火照った身体に更なる熱を呼び起こされて情動に流されかけた。  しかし僅かに残る理性が、ローテーブルにある食べ物やグラスを蹴り倒してしまうのではないかと柚希は聞き分けのない犬を叱るようにのしかかってくる身体を押しのけようとした。 「カズ! まて、ここじゃ、狭くてあぶないだろ」 「待てないよ! なにその理由? 兄さん、父さんの顔見て、僕の成長したとこ想像してたの?」 「な、なに興奮してるんだよ?! 落ち着けって」 「柚にいは……。父さんに僕を見てたってこと?! なんだよそれ……。もっと早く教えてよ!」 「え、聞かれたことなかったし」 「兄さん……。柚希!」 「あ、はい……」 「……紐パン、えろい。すげぇ似合ってるよ? 柚希、今すぐ抱きたい……」    シャツを頭から脱ぎ捨てた和哉の身体はもはや湯気でも立ち上りそうなほど熱く、鍛え上げられた身体の陰影が間接照明に浮かび上がってセクシーすぎて目を潤ませて柚希は恥ずかしさで瞳を伏せてる。  バスケ部で男同士で一緒くたになって着替えていてもこうはならなかったし、学生時代は勿論女性の半裸のグラビアの方がより心惹かれていたのに。 (しょうがないよな……。カズは生き物として圧倒的に綺麗だもんな)  どうしても物欲しそうな瞳で見つめてしまうのは許して欲しい。和哉が零れ落ちた柚希の香りにすぐさま反応して、柚希を抱き上げてきたから素直に抱き上げられて和哉の長い脚では本当に何歩かでたどり着けるほどの寝室になだれ込んでいった。  今日は和哉の布団が準備よく床にしかれていたから(カズ……)と思いつつもふっかふかの布団にゆっくり寝転がされて口づけを交し合う。  のしかかってくる大型犬だか狼みたいな和哉の身体は暖かく、エアコンを利かせてもどこか隙間風が入るボロアパートの部屋だが、彼が迸らせてフェロモンが溢れかえるようだ。  すうっとそれを吸い込んで、柚希はふわふわと夢心地になりながら、酒で理性の緩んだまま長い脚を大胆に開くと、足を和哉の背に絡めて……。しかし年長者で兄で、お母さんのような心地にもたまになる柚希は、またもや細かいことが気にかかった。 「んっ……。カズぅ、カズもお風呂はいっておいで」  和哉がまさぐってくるからだがこそばゆくも心地よくて、鼻にかかった声が出てしまう。だが和哉はそのまま部活の着替えの時の如くズボンを手早く脱いで柚希の首筋に顔を埋めてその香りに心酔したようなそぶりを見せた。 「……いいよ、このままで。早く柚希が欲しい」 「和哉、いけない……。今日すごく冷えるから風邪ひくと駄目だよ。最高にあったまってぬくぬくして、した後直ぐにそのまま2人で寝よう? きっとすごく気持ちいいよ、なあ?」  和哉の性癖を擽るらしい、わざと年上らしい口ぶりで顔を僅かに上げた和哉に柚希の方から口づけたら、年下の番はなんとか「待て」が出きたようだ。自らも柚希の口元に音を立ててキスを送るとベッドから掛け布団を引っぺがして柚希の上にかぶせて部屋を出ていった。 「わかった。柚希こそ、温かくして待ってて?」  一瞬視界が遮られた布団の中、このまま眠ってしまいたい衝動にかられたが、流石にそれはまずいと柚希は起き上がる。 (このままここにいたら和哉が風呂から出てくる前に寝ちゃうな、俺)  仕方なく立ちあがって、布団は一度ベッドに戻して、発熱するという触れ込みで買った高機能な毛布の方を肩からマントにようにくるまってぺたり、とベッドの上に座り込んだ。 「ふふーん」  また鼻歌が出てしまうほど、適度に酒が回り官能に火をつけられた身体がふわふわとこのまま風船みたいに天井に浮かび上がりそうに気分がいい。    なんとなく落ち着きなく立ちあがって、柚希は部屋を歩き回るとふと帰ってきた時に置き去りにした白い紙袋が目に入った。 (そうだった……。ここに置きっぱなしだと、勘のいい和哉が気を回してこれが俺からのプレゼントとか思ったり、逆にじゃあなに?ってなったりするとややこしいな)  とはいえ、ほろ酔い柚希の行動にはやや脈絡がなく、紙袋を机の上に置いて中身を取り出してみた。  晶がわざわざ届けてくれた、職場に置きっぱなしにでもして、なくしたとばかり思っていたイヤホンのケースは捨てようか迷っていたそのイヤホンが入れてある引き出しに突っ込んだ。 (……あ、こっちも)  開放型のイヤホン。  自転車通勤に使えるかもと思って一時期欲しかったのだけれど、開放型でもイヤホンはイヤホンなので運転中には危険だろうと諦めていた。  欲しがって口にしていたことを晶は覚えていてくれたのだろう。 (あの話をしたのはいつだっけ? 晶いつ用意してくれたんだろう……)  白い小さな箱は丁寧にリボンがかかっていて、明らかにプレゼント用に設えられている。  まったく何の気もなしにリボンを解いて、その箱を上からぱかっと開くと、臙脂色の小さなカードが折りたたまれていた。 「イヤホンじゃない……」  思わずそう、口にしてしまうほど驚いてしまったのは、載せられていたカードを取り出したその下に、見るからに高級そうな文字盤が光を反射し煌めく、美しい腕時計が恭しく置かれていたからだ。  震える指先でカードを開くと、そこに綴られていた金色の文字に柚希はドクンっと一度大きく揺れた後に強く早鐘を打つ心臓と、乱した吐息をなんとか整えようと口元を手で覆う。しかしとてもできそうになかった。  足をふらつかせ、机に両手をついて、カードを何度も何度も覗き込んで嗚咽を漏らしそうになる。それは語学堪能とまでは言えない柚希でも流石に知り得ている、あの言葉。 『Will you marry me?』  頭の中に寂しそうな笑顔が何度も何度もサムネイル画像のように頭に浮かび、深い深い後悔を宿していたと知れた台詞が、繰り返し繰り返し柚希の中に木霊した。 『……捨ててくれても構わない」 『もったいぶってクリスマスに渡そうなんてしなければよかったな。どんどん渡せばよかったんだ』   (晶っ! お前、どんな気持ちで……、俺にこれを渡しに来てくれたんだ?)     今の今まで和哉との蜜のように甘美なやり取りを経て、天の雲の上を有頂天でぷらぷらと歩き回っているような夢見心地の気分に浸っていた柚希は一気に酔いが醒めてその場に崩れ落ちそうになった。    どうにもできない、やるせない気持ちに襲われて、まだまとまらない思考で携帯電話を引き寄せた。 (これは……。俺が受け取っちゃいけないものだった。……返さないと。きちんと晶に……。でも、そんなことあいつは望んでいるのか? 会いに行って……。また変な期待を持たせてしまったら? どうしたらいい?)    スマホにまだ残る晶の連絡先を呼び出して、指先は寒さを思い出しただけではない震えに定まらない。  酔いは醒めたと思っていたが、一日の疲れを身体はまだ覚えていて、思考が上手く定まらないのだ。 「柚希」  さらにぴしゃりと冷たい水を浴びせかけたのは皮肉にも最も愛おしい男が自分を呼ぶ声だった。 「あ……」  肩を滑り落ちて毛布が足元にわだかまり、湯上りのまだしっとりと濡れた逞しい腕が柚希を閉じ込めるように胸の前に回って項に舌を這わされる。 (和哉! 和哉にこれを見られたら……)  どんな誤解をされるか分からない。先ほどの和哉のみせた愛ゆえの激高が怖ろしくて、再び心臓が鼓笛隊の太鼓のように強く規則的に叩かれ柚希を追い詰めていく。  先ほどまで蕩けそうな表情を見せていた恋人の背が小刻みに震えていることを、和哉が見逃すはずもなく、手の中にくしゃり、と握りかけたカードを、もはや隠すことも和哉を振り返ることもできない。 「柚希? 震えてる……、どうして? それは、なに?」  
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