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誕生日の朝。
こんな気の重い誕生日、生まれて初めてだよ。
だけど、今日も学校がある。のろのろと制服に着替えて、あたしはLDKに向かった。
「おはよう、紗帆ちゃん。誕生日おめでとう!」
先に食卓に着いてた双子の妹が、あたしの顔見るなり明るく声掛けて来る。
「……あー、ありがと。麻帆もおめでとう。お互い十七歳だね」
椅子を引いて座った目の前には、白いプレートにトーストとスクランブルエッグ、ウィンナー。いつもはサラダだけど、今日は白い小鉢にキウイ。
鮮やかなグリーンの断面が眩し過ぎて、朝から涙出そうになるのをあたしは必死で堪えた。
──昨日、祥平が持って来てくれたんだ。
「ねぇ。昨夜、祥ちゃん来てたんでしょ?」
「うん。ママに聞いた?」
麻帆の言葉に、あたしは何気ない振りで返す。
「そう、『キウイ貰ったのよ~』って。……わたしも塾じゃなかったら会えたのに、残念ー」
逆だよ。麻帆が塾で居ないってわかってたから、祥平はうちに来たの。
「紗帆ちゃん、祥ちゃんと仲良しでいいなぁ」
軽く口尖らせた、そんな表情でさえ可愛い、妹。
「あたしは祥平にとっては『女の子』じゃなくて男友達と同レベルなんだよ。それだけ」
「えー、そんな筈ないって! 紗帆ちゃん、綺麗だし大人っぽいし。せめてわたしも紗帆ちゃんみたいに、もうちょっと背が高かったらな~」
別に自虐でも何でもない。たぶん、これは真実だから。
なのに単なる慰めって感じじゃなく、麻帆が本気で言ってくれてるのが伝わる。
……そういうとこ、ホント敵わない。
「紗帆ちゃん、先に洗面所使うね!」
食べ終わって、律儀に断って席を立つ麻帆に頷く。あたしもさっさと食べて用意しないと。
プレートを空にして、あたしはスライスしたキウイにわざと乱雑にフォークを突き刺した。
──甘くて、酸っぱくて。これから先、あたしはきっとキウイを見るたび、食べるたびに今の気持ちを思い出す。
~END~
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