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やる気なんて運みたいなもので、有る時には有るし、無い時には何をしても無い。やる気が起きない時にするべきなのは、やる気を起こさせる努力じゃなくて、これ以上下げないで、やる気が湧き上がってくるのをじっと待つこと。そう、どこかの誰かが言っていた。
なら、ずっとやる気がゼロのわたしはどうすればいいのさ?
仕様のない事を考えながら、自室のベッド――わたしにとっての安全安心な聖域――でだらりと寝返りを打った。
時計は夜の九時を示している。眠るにはまだ早い時間。けれど、起き上がる気力もない。
今日は、ううん。今日もわたしは一日の大半を、こうやってベッドでだらしなく過ごしている。最近はずっとこんな感じだ。
ぼんやりと焦点を合わさずに白い天井を見つめていると、壁を挟んだ隣の部屋からガサゴソと忙しなく物を動かす音に続いて、時折混ざる「痛っ」「あーもうっ」 といった苛立った女の人の声が聞こえた。
しばらくぼうっと聞いているけど、胸の奥がゾワゾワと落ち着かなくなって、わたしは隣の部屋を覗いた。音が耳障りなのもあるけど、それ以上に物音を立てている彼女自身が気になった。
「大丈夫?」
ドアを開いて尋ねると、物音を立てていた犯人である純香さんは段ボールに荷物を詰め込んでいた手を止めて、こちらを振り返った。
「あー、佳奈実ちゃん? うるさくしてごめん。もしかして、寝てた?」
その言葉からは謝罪よりも面倒くささの方が滲み出ていたけど、いつものことなので気にせずに、わたしは控えめに首を横に振った。
「ううん。大丈夫。気にしないで」
「そう。なら良かった」
言って、純香さんはふっと笑った。
その顔をまじまじと見ながら、わたしは思う。
やっぱり、綺麗な人。
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