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純香さんはお母さんのお姉さん。要はわたしの伯母さん。一年前くらいに急にうちの家に押しかけてきて、空いていた私の部屋の隣に居候している。
いつも疲れた顔をして、何かに付けて小言を言うお母さんとは違って、純香さんは肌もピンと張っていて、どこかキラキラしていて綺麗。お母さんが妹で、純香さんのほうがお姉さんなのに、見た目だけなら反対。純香さんは老いが始まる前に歳を取るのをやめちゃったみたい。
「そういえば、今日も学校行かなかったでしょ」
「……うん」
彼女の言う通り、わたしは今日、中学校を休んだ。正確に言うなら、今日も休んだ。
ここしばらく、学校は休みがちになっている。毎日休んでるわけじゃない。やる気の起きない日だけ休んでる。はじめはたまに休むくらいだったのに、徐々に休みの頻度が増えていって、今では一週間の半分は学校に行っていない。そんな生活が中学二年生になって一月経ったくらいから始まり、数えてみればもう半年以上になる。
病気ではない。至って健康。体調も良くはないが、外に出れないほど悪くもない。ただ、学校に行かなきゃと思うと、それまであったはずのやる気が急に萎んでしまう。登校する気力が散って消える。やる気がない。それだけ。
きっかけは思い出せない。友達だとか、勉強だとか些細な悩みが積み重なり、しんどくなって仮病でズル休みをしてみたら気が楽になった。そこから少しずつズル休みが増えていって、今に至るってところ。自分では真面目な人間だって自負していたけど、そうでもなかったってだけ。
はじめはお母さんや担任の先生、クラスの友達といった周りの人たちも、急に休みがちになったわたしを励まし、背中を押してくれていた。でも、わたしの意思を尊重してくれたのか、それともわたしに期待するのをやめたのか、いつしか誰も何も言わなくなった。
わたしなんかに誰かの手を煩わせることが無くなって気は楽になったけど、なんだか寂しくもある。
「どうして、行かないの?」
「あー……」
言い淀んで言い訳を探したけど、すぐに思い直して、
「今日はやめたの」
と開き直った。
「そっか」
純香さんはニヤリといたずらっぽく口角を上げて笑う。
「イケナイ子。不良だ」
「そうなの。わたしは不良なの」
純香さんが笑ってくれたので、ズル休みに対する後ろめたい気持ちが軽くなった。わたしも笑い返す。きっと、これがお母さんだったら嫌な顔をしただろうし「学校は行かなきゃダメよ」なんて小言を言われていたかもしれない。でも、純香さんは受け止めて尊重してくれる。
そんな純香さんが、わたしは好きだ。
純香さんはいつか役立つからと、わたしにいろんなことを教えてくれる。
ファッションだったり、簡単な化粧だったり、オシャレなカフェ。お酒はまだ早いけど雰囲気だけでもって、居酒屋にもつれて行ってくれた。
純香さんはわたしに知らない世界を見せてくれる人。わたしの憧れ。
それなのに……。
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