Ignorance is bliss.

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 ある日のこと、祐稀は崇明の帰宅を待っていた。崇明は近所の公園に遊びに行っており、三時のおやつ前には家に帰ってくるはずなのだが、帰ってこない。 「遅いわね。折角のホットケーキが冷めちゃう」 三時を少し回るぐらいなら誤差だろう。祐稀は特に気にすることなく自分のホットケーキに手を付けるのであった。 三時半を過ぎても崇明は帰ってこない。心配になった祐稀は近所の公園に崇明を探しに行くが見当たらない。行き違いになったかなと思い息を切らしながら帰宅するも、帰宅していない。 四時を過ぎても崇明は帰ってこない。友達の家でおやつでもごちそうになっているのだろうかと思い、祐稀は心当たりのママ友全員に電話をするが、梨の礫。 祐稀は崇明の迷子を疑い、警察に通報。警官数名による近隣の捜索が行われた。しかし、梨の礫。 翌日を迎えても崇明は発見されなかった。失踪から一日が経過したことで警察は誘拐や事故などの可能性を考えて署内に捜索本部を設置。警察官数百名、町内会を中心とした近隣住人…… 皆が粉骨砕身での捜索を行う。泰明は歯科医を臨時休業し町内会に混じり捜索に参加、祐稀は体の弱さ故に自宅にて電話待機を担当するのであった。 三日が経過しても梨の礫。マスコミも「崇明ちゃん失踪事件」として全国ニュースで報道、全国から集まったボランティア数百名も捜索に参加することになった。一週間が経過しても梨の礫。警察は公開捜査へと切り替えた。泰明と祐稀はカメラの前に立ち涙ながらに崇明の無事を願い訴えた。視聴者より星の数程の情報が集まってくるが、崇明の発見には至る情報は何一つない。 二年が経過しても梨の礫。崇明は見つからないまま警察は捜索本部を解散、ボランティアの捜索も終了、泰明も「息子が失踪した歯医者」「実は殺して死体隠してるんじゃないの?」と陰口を叩く心無い一部の近隣の住人やSNSの好奇の目に晒されながらも歯科医として業務を続けている…… マスコミの報道も崇明がいなくなった日に駅前でビラを配る祐稀の元に取材し「崇明ちゃんがいなくなって◯◯年が経過します」と言った数秒のフラッシュニュースを年一回流す程度になってしまった。
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