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長い、長い時が流れた。
泰明と祐稀は手術室の前の長椅子に座り、手を合わせ神に祈るのみ。看護師に「お休みになられて下さい」と言われるも、そのまま動かずに祈りを続けた。
心臓移植はどんなに短くても十時間以上はかかる大手術になることが多く、今回の手術も十七時間の大手術であった。
泰明と祐稀にとっては百七十時間にも千七百時間とも思える長い時に感じられた。
手術を終えた医者が手術室の扉を開いた。泰明と祐稀は立ち上がり医者に駆け寄る。
「先生! 息子は!?」
「先生! 智明は!?」
医者は重い口を開いた。
「成功は…… 致しました。後は集中治療室で経過を見守るばかりです」
二人は安堵し涙を流し、医者に心からの感謝をした。
「先生! ありがとうございます! ありがとうございます!」
「いえ、私は出来るだけのことをしただけです『きまり』があってお教えは出来ないのですが、心臓を提供してくれた少年に感謝の方をしてあげて下さい」
三ヶ月後…… 智明は無事退院に至った。この三ヶ月間、智明は大人しくするだけの入院生活の鬱憤を晴らすかのように激しく動き回った。ベッドの上で飛び跳ねる、病院の階段を一気に駆け上がる、小児病棟の子供たちとチャンバラを行う、病院の中庭をアニマルセラピーの犬が疲れて動けなくなるまで散歩…… と、言った具合に腕白少年ぶりを周りに見せつけ医者や看護師を驚かせた。
退院後の智明はよく食べよく動き元気溌剌を極めたような少年になっていた。心臓の移植前は周りの子供より一回り小さかった体格も、移植後は逆に一回り大きくなる逆転現象が起こっていた。年長から入園した幼稚園でも腕白少年としてその名を轟かせている。
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