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話を今に戻そう。今年も崇明がいなくなった日を迎えた。マスコミが駅前で崇明捜索のビラを配る祐稀の姿をカメラで写す。インタビューを受けた祐稀は「一年に一回、こうしてニュースにしてくださるだけでありがたいです」と、謝辞を述べた。毎年同じ記者が祐稀の取材を担当するのだが、今年は祐稀の横に見慣れない少年がいることに気が付き、記者は祐稀から智明の説明を受けた。
「ああ、弟さんがお生まれになられたんですね」
「ええ、色々ありまして外に出られない子だったので……」
記者は「これはいい絵になる」と、智明にマイクを向けた。
「智明くん、お兄ちゃんいなくて寂しい? どう思う?」
意地の悪い質問である。崇明がいなくなったのは智明が生まれる前で存在を知るわけがなく、寂しいとか寂しくないとかそんな問題ではない。祐稀は来年からはこのテレビ局の取材を拒否しようかと考えた。
智明はブルブルと犬が水を振るように首を振った。
「ボクのお兄ちゃんは胸の中にいるんだよ。ずっと一緒だよ」
祐稀は会ったこともない兄を想う智明のためにも絶対に崇明を探し出すと心に固く誓うのであった……
おわり
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