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いいえ、それは私。
思いがけず、私が声を出していた。
心の中の言葉が声になって出ていたみたい。
バンドマンのお兄さんは
「え? 何?」
とイヤホン外して、怪訝そうに私に尋ねた。
う、ちょっと怖い。
でも、うっかり言っちゃった。もう引っ込みつかないよ。
「こちらのお爺さんに、息子が席を譲ったんです」
と私がもう一度言うと、お爺さんは
「ああ。いいよ、いいよ」
そんなに気にした風もなく、遠慮して横に手を振っている。
バンドマンは、サングラス越しに息子をじろりと見た。
黒いライダージャケットにダメージジーンズ。いかついロングブーツをはいたバンドマンに睨まれて、息子は私のスカートをきゅっと掴む。
よく見たら、赤い髪に耳には十字架のピアス。もしかして、首にチェーン模様のタトゥなんか入れてない?
(やだ、どうしよう。超怖いかも)
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