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社会人になって、祖母の家を出て一人暮らしを始めた。電車通勤で会社に向かい、鮨詰め車両にも痴漢にも、年功序列の男社会にも負けずに働いている。
日々が目まぐるしく過ぎて行って、家路に着くとそのまま眠る日もあった。
もっぱらコンビニの惣菜で夕飯を済ます毎日。
料理は苦手。
「お母さん食堂」
その名前を見た時にあまり良い印象を持たなかった。
母親のいない私にはイメージが付かない。
でも、並んでいる商品は一つ一つがとても美味しそうで、徐に一つ手に取って買い物カゴに入れた。
海老グラタン。グラタンなんて休日のファミレスで気が向いた時にしか注文した事がない。
早速食べてみるとベジャルメソースの濃厚な味わいに海老の風味が加わっていて、味わいは暖かくて、包み込まれるような優しい感覚が口に広がった。
「これがお母さんの味?」
何故だか私の瞳から涙が溢れ出た。
ただのグラタンなのに、「お母さん食堂」なんてフレーズのせいか、私にはそれが亡き母が作ってくれた海老グラタンに思えた。
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