2,知子

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美味しい。 柔らかいミルクの風味の後に、コーヒーの芳醇な香りがしっかりと鼻を抜けていく。それでいて苦味や雑味は感じられず、優しい甘さが心地よかった。 「美味しいです」 思わずカウンターの向こうの女性に声をかけると、女性は「ありがとうございます」とはにかんだ。 整った顔立ちの人だなとは思っていたけど、笑うと可愛い顔になる。 カウンターに立っていると大人びて見えるけど、笑うと幼さが残っているようだった。 白いシャツに白い肌。ついクセで手元を見ると、ネイルどころかハンドケアすらしていないまっさらな手元だった。 無加工で勝負できるのは美人の特権だ。 人生は不公平だと知子は思う。 白とピンクのフレンチネイルに、ストーンを散りばめた自分の手元を見て、「私はこんなに努力しているのに」とため息をつきたくなった。 美容師の柏尾と別れたばかり(というより、付き合ってもいなかったのだけど)の自分は毎日必死で仕事をしているのに、この人はこんなカフェでのんびり働いている。 余裕があるように見えるのは、顔もいいしきっと今まで周りに大切にされてきて苦労したことがないのだろう。 自分とは大違いだ。 知子が勝手にそう決めつけながらカフェオレを口にしていると、 「あー!やっぱ違うねー!」 急にカウンター席を一つ挟んだ隣の男が喋り出したので、知子は驚いてスマホを落としそうになってしまった。
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