2,知子

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「やっぱ自家焙煎だとチェーン店のコーヒーとは違いますよねー」 どうやら男は女性店員に話しかけているようで、わざとらしく知子にも聞こえるように話しているように見える。 チラリと知子はその男に目をやった。 薄いブルーのジャケットに、ネッカチーフ。白いパンツとやけに爽やかな出立ちだ。 (65点) 知子は心の中でそう呟いた。 男の奥には、小太りで五分刈り頭の男が座っている。二人は知り合いのようだ。 (あいつは32点) 男の顔に点数をつけるのが知子の趣味だ。 点数をつけるために顔を見ていたら、65点と目が合ってしまった。 「ごめんなさい、ボクの声大きかったですよねー」 そう言って男は知子に頭を下げたが、口とは裏腹に知子と話をしたそうな空気感を出している。 知子も笑顔で会釈をした。「こんなに美味しいカフェオレは初めてです」と返すと、男は「そうでしょう!?その辺のチェーン店とは香りの質が違うでしょう!?」とまるで自分のお店のように言う。 「そうですね。豆が違うんですか」 知子がそう返したのは、ジャケットの男に興味があったからではない。 妻がいるくせに軽々しく自分をホテルに誘った柏尾や、彼女がいるくせにずっとそれを黙って身体の関係だけ続けていた山崎に見せつけてやりたいからだ。 私だってモテるのだということを。
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